政治と電力 日本の原子力政策全史(下)No2

  「政治と電力」(下)No1のページでは、「核燃料サイクル」と高速増殖炉「もんじゅ」について説明してきましたが、みなさん何か疑問はないでしょうか。。。核燃料サイクルにおいては、軽水炉型原発(通常の原発)で燃料を燃やすと数年後には、使用済燃料がでますよね。また、高速増殖炉の発電に必要な燃料って、軽水炉型原発から不要になった使用済燃料を再処理して造ったプルトニウムですよね。 「国が核燃料サイクルを堅持する」というのなら、その使用済燃料とかプルトニウムってどこにどのくらいあるのか疑問に思いませんか。。。

  実は、これも原子力開発においては問題になっているのです。まず、使用済燃料の保管についてです。青森県に六ケ所村というところがあります。この六ケ所村には、核燃料サイクル施設があります(核燃料再処理工場、ウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物貯蔵施設など)。この六ケ所村の再処理工場には、容量3000トンの使用済核燃料貯蔵プールがありますが、このプールにはすでに2960トン余りが保管されています。また、全国の原発に併設されている使用済核燃料プールにおいても全体の72パーセントが使用済燃料ですでに埋まっている状態なのです。(下巻P220)


  次にプルトニウムについてですが、使用済燃料を再処理してプルトニウムをつくるのは、現在日本の茨城県東海村や、イギリス、フランスの再処理工場で行っています。(下巻 P209) 日本が保有するプルトニウムの量は、2016年度末時点で約46.9トンあまり、この数字だけだとよくわかりませんが、核爆弾の数にすると実に約6000発分に上ります。。。これにはちょっとびっくりしませんか。 そして、この日本が保有するプルトニウム全体の約1/5が日本国内、残りの4/5がイギリス、フランスあるのです。しかし、ここでびっくりしてはいけません。今現在、「高速増殖炉」って、もんじゅの計画が頓挫して、稼働しているところはないので、このプルトニウムは貯まるばかりですよね。では、日本政府はこのプルトニウムをどうするつもりなんでしょう。

  実は、この貯まる一方のプルトニウムをどうするのか。。日本政府はとても困っています。なぜなら、このプルトニウムは核兵器として使用できるためアメリカや中国が、日本のプルトニウム保有にとても神経質になっているからです。 このため、この増える一方のプルトニウムを消費するため日本政府が(無理やりに)計画したのが「プルサーマル計画」です。プルサーマルというのは、通常の原発(ウラン燃料用につくられた軽水炉型原発)で MOX燃料(プルトニウム・ウランの混合物)を燃料として使い発電するものです。上川さんによると、「高速増殖炉を中核とした核燃料サイクル事業が遅々として進まないことから、それまでの『つなぎ』としてプルサーマルが検討され、その実施に向けた準備が始まったのは1980年代後半のことである」とあります。(上巻P124) また、「電事連は、2010年頃までに16~18基の実証炉を建設し、年間6トン程度のプルトニウムを消費することを目標としている。」(*1)としています。

  しかし、このMOX燃料というのは、通常のウラン燃料よりも高額で、上川さんも「MOX燃料は価格が高く、プルサーマルに経済合理性はない」と指摘しています。「電力会社は『契約に関わる事項』としてMOX燃料の価格を公表していない。だが、財務省の貿易統計では、輸送費や保険料を含む総額が公表されていて、これを同様の貿易統計からのウラン燃料費と比較すると約9倍の高値になる」(上巻P125) そして、プルサーマル計画について次のように結論づけています。(要するに)「プルサーマルには、余剰プルトニウムを増やさないという目的しかないのである。」 そのうえ、残念ながら、今のところ、日本ではこのMOX燃料の再処理を行う技術はなく、その処分方法すらも決まっていない状態なのです。


  更に更に、、(軽水炉型においても、高速増殖炉においても)核燃料サイクルの最終段階においては、再処理された燃料を燃やした後は最終廃棄物がでますが、これもまた問題なのです。実は日本ではこの最終処分場をどこにどのようにつくるか、決まっていません。「(核燃料サイクルの)問題の根本には、高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場が決まっていないことがある。政府と電力業界は、核燃料サイクルを口実に、六ケ所村に使用済核燃料を押し付けてきた。また、各地の原発につくられている使用済核燃料貯蔵プールにも、使用済み核燃料は貯蔵されてきた。電力会社は、核のゴミの最終処分場にされたくない青森県や六ケ所村に対しては、将来使用済核燃料は県外に移すと約束してきた。しかし、それはその場しのぎに過ぎず、中間貯蔵施設を建設したのは、東電・原電だけで、その他の電力会社の中間貯蔵施設、そして最終処分場については候補地すら決まっていないのである。」(下巻P285)というのです。

  ここまで日本の原子力政策については数々の問題点があることが理解して頂けたかと思いますが、実は、さらに頭の痛い問題があります。それは「核燃料サイクル計画」が実際のところ、見通しのないものとなっていることです。

  「高速増殖炉のみならず、核燃料サイクル事業は、まったく見通しのつかないものとなっている。まず核燃料再処理についてであるが、1989年に発表された当初の計画では、六ケ所再処理工場は、1997年に完成し、建設費も約7600億円で済むはずだった。しかし、建設完成は2000年となり、建設費は約2兆1930億円に膨れ上がった。2001年4月からは試験が開始され、06年3月からはプルトニウムを用いたアクティブ試験を始め、07年8月から操業開始を見込んでいた。ところが、試験中に耐震設計ミスが判明したり、試験運転でトラブルが相次いだりした結果、完成時期は延期され続けている。。。しかも、2017年7月には、建設費や総事業費がさらに膨れ上がることが明らかになった。福島第一原発事故後に導入された安全対策として緊急時対策所や冷却水を貯める貯水槽の新設などが必要となり、それに約7500億円かかるため、建設費は約2兆9000億円に増えるというのである。また、40年間の運営費や廃炉にかかる費用などを含めた総事業費も12.6兆円の見通しだったのが、維持管理費や人件費などが増え、13.9兆円に増えるというのである。」   


  欧米各国では、技術やコストの面から早期の実現性は低いとして、核燃料サイクル計画を見直したり、撤回したりしてきました。しかし、日本だけは現在でも核燃料サイクルの確立を目指しています。。おそらくこれには、現実的な問題があるから安易にやめると言えない、ということなのでしょう。なぜなら、核燃料サイクル事業を中止すると六ケ所村の再処理工場が使用済核燃料の引き受けをしなくなり、そうなると使用済核燃料の保管場所がなくなり、原発を運転できなくなること。電力会社は会計上、この使用済み核燃料を「資産」として計上しているので、核燃料サイクル事業がなくなると、その資産が負債に変わり、またその処分方法についても問題が発生するからだろうと推測します。(*2)


  うーん。。資源のない国の宿命というのか、、第二次世界大戦で負けた日本の指導者たちの悔しさ、怨念とでもいうのか。。日本の原子力政策については、そんな空寒いものまで感じてしまうのは私だけでしょうか。。。「政治と電力」(上巻)の 原子力村(ムラ)と同様、「核燃料サイクル」についても日本政府は、もっと多くの人に丁寧に説明することが必要だと思います。最近の新型コロナ対策等で国の借金が1100兆円を超えました。今後増大する社会保障費も課題です。それにこの原子力政策。。。福島第一原発の事故後の処理(汚染水、核のゴミの除去、廃炉、、)だけでも一説には50兆円~70兆円という額にもなるといいます。やはり、日本の原子力政策に関してはもっと国民的なレベルで論議される必要があるのではないでしょうか。。。この問題も「社会保険」と同様、まずは、我々大人世代が正しく理解して、これから未来を背負って立つ若い人々にちゃんと伝える必要がある、そして、彼らこそ過去に囚われずこれからのエネルギー政策や原子力政策を自由に議論する主役になって欲しい、と強く思います。


(*1)この目標は1997年当時のもの。2021年末現在、日本では、高浜、伊方、玄海などプルサーマル炉4基がすでに稼働。(*2)核燃料サイクル事業を中止すればプルサーマル発電も頓挫し、使用済み核燃料の資産価値はゼロになり、電力会社の財務状況が大幅に悪化する。