女盗賊プーラン(上巻、下巻)
立花隆さんのお薦め本。インドの最貧村の女の子が、村や社会に根強く残る階級制度に憤慨•反発し女盗賊となり、それまで自分を屈辱的に扱い、家族や自分から利益を享受してきた男たちに復讐し、裕福民から奪取した金品を貧しい人々に分け与えることで、貧しい人々や女性たちの英雄になり、司法取引で刑務所に服役したのちに国会議員となった一人の女性プーラン・デヴィの物語です。
インドのカースト制度についてはあまり知らなかったのですが、彼女の話では、直接的なカースト制度というのは、すでにインドでは廃止されているようです。しかし、その制度が昔からインド社会に与えていた因習的な精神性、思考性はまだまだインド人(特に教育を受けなたっか人々)のマインドを支配し続けているようです。特にプーランが生まれたカースト制度の底辺階級にうまれた人々が住む最貧村のようなところでは、少しでも階級が高い人間が階級の低い人を差別(というより搾取)し続けているのです。話を本書のプーランに戻しますが、プーランは1958年頃、インド北部のウッタル・プラデシュ州に生まれます。貧しい両親の元、毎日水汲みや牛糞を丸めて乾かす仕事で両親を助けていました。しかし、わずか11歳で30すぎの男やもめと強制的に結婚させられます。
ここから、彼女の筆舌に尽くせぬ彼女の苦難が始まります。夫といっても、この男は女性を家畜同然に扱うような人間で、彼女を労働力と欲望のはけ口として利用する人間でした。その後も両親の土地をだまし取った親戚の男からの凌辱をうけたり、あらぬ噂を立てられたり、挙句の果ては、村の有力者の男に騙され刑務所へ入れられそこでも屈辱的な扱いを受けます。
しかし、そんな彼女にも運命の転機が訪れます。ある日、彼女の住む村に盗賊がやってきて、金品と一緒に彼女も連れ去ってしまうのですが、その盗賊団のリーダー格のヴィグラムがプーランを慕うようになります。もちろんヴィグラムは彼女の身に起こった不幸な出来事を彼女から聞くのですが、彼女を決して見下すようなことはなく、逆に彼女がされたことに義憤を感じ、彼女に復讐を遂げさせることを誓います。まもなく盗賊団の仲間内だけで結婚式を挙げるヴィグラムとプーラン。盗賊団の仲間からは、「われわれは、プーランを母とも姉妹とも慕い、大事にする。この誓いを破った者には死の報いを」と誓いの言葉を受けます。初めて父親以外の男性から祝福の言葉を受けたプーラン。この盗賊団のリーダー、ヴィグラムと結婚したことで彼女の人生は一変します。
盗賊という身ではありますが、これまでとは違い、一人の自尊心を持つ人間として成長するプーラン。日本では、石川五右衛門、イギリスではロビン・フッドのような盗賊を「義賊」(*)といいますが、正にヴィグラム達もそういった種類のの盗賊だったのでしょう。ヴィグラムと彼の率いる盗賊団との生活が始まり、かつて自分を凌辱した連中に復讐を遂げるプーラン。しかし、ヴィグラムとの蜜月期間も長くは続きません。ヴィグラムが師と仰ぐ人物を自分の盗賊団へ招いたことでグループ内に亀裂が生じ、さらにこの人物の裏切りによりヴィクラムが殺されてしまったからです。彼の死を受けて、プーランは盗賊団のリーダーとなり、盗賊活動を続けます。しかし、法治国家として盗賊活動を一掃したい国は、地方州の役人を通じてプーラン率いる盗賊団に司法取引の声をかけます。当初は国や州の話に疑いを持つプーランですが、自分の命を顧みず司法取引の交渉を続けた交渉人/パラス・ラムの言動を信用し、遂に司法取引に応じます。
マスコミ屋警察が取り巻く中で交渉に神経をすり減らすプーラン。なんとか投降する日を迎えたプーランと彼女の盗賊団の部下たち。警察当局へ出頭した彼女を乗せた警察の車を大勢の人々が取り囲みます。「プーラン投降」のニュースを知った大勢の民衆が集まってきたのです。そして、彼等は「プーラン・デヴィ、万歳」と声を挙げ、彼女を讃えるのでした。。
確かに、村社会や、男社会からひどい仕打ちをうけたプーランですが、彼女の投降する日に集まった民衆一人一人も、男女の性に関係なく、また程度の差こそあれ同じような仕打ちを受けた経験を持っていたのでしょう。だからこそ、盗賊とはいえ尊厳を持ちながら不公平を正そうとする彼女の姿に共感し、彼女に声援をおくったのだと思います。
余談ですが、このお話の主人公プーラン、映画「ターミネーター」(1984年、ジェームズ・キャメロン監督)に登場する女性主人公サラ・コナーと性格はとてもよく似ていると思いました。
(*)義賊:時の権力者から罪人扱いされる一方、庶民から慕われる個人や集団
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