ティール組織

       ティール組織とは、上層部のマネジメントがなくても、全組織メンバーが、目的達成のため、同僚と密接に連携しながら独自に行動を起こす自立的な組織のことです。


  本書「ティール組織」の著者/フレデリック・ラルーは、世界的に有名なマッキンゼー・アンド・カンパニーで10年間勤務し、その後約2年半をかけ新しい組織モデルについて世界中の組織を調査。この新しい組織モデルについての執筆にとりかかりました。彼は、まず、これまでの歴史を振り返り、人類が創り上げた組織について原始的なものから近代的なものへと、「無色」「神秘的」「衝動型」「順応型」「達成型」「多元型」と分類しています。

【無色】 :血縁関係の小集団組織 

【神秘的】:古代における部族のような数百人規模の集団

【衝動型】:マフィア、ギャングなど力・恐怖により分業が成立する単純な組織

【順応型】:時間の因果関係を理解し、規則・規律により階層構造をもつ(教会・軍隊)

【達成型】:予測と統制による実力主義。多国籍企業のような効率的・複雑な階層組織

【多元型】:多様性、平等、文化を重視するコミュニティ型組織。ボトムアップの意思決定

  

  そして【多元型】組織の次の新しい組織形態として、近年、国境を越えて散見されるようになった自主経営的組織【進化型】(ティール型組織)について説明します。

【進化型】:ティール型。自主経営・全体性・存在目的を重視する独自の慣行をもつ


   著者のフレデリックは、本書においてティール型組織の例として、まず、オランダで地域密着型在宅ケアサービスを提供する「ビュートゾルフ(*)」の活動を紹介します。ビュートゾルフは、細かく分けられた担当地域に、10~12名のチームを配置し、それぞれのチームは、おおよそ50人の患者を受け持ちます。1つのチームでは、ケアサービスの仕事を担当ごとに分けることはせず、あらゆるケアサービスを担当し、どの患者を何人受け持つかを自分達で決めます。


  ビュートゾルフのチームの特徴はリーダーが存在しないこと。新しい患者の受け入れ、ケアプランの作成、休暇や休日のスケジューリング、業務管理、現地のどの病院、どの医師や薬局と協力するのがベストか、もチーム毎に看護師間で判断。さらに、ミーティングの設定、同僚間での仕事の割り振り、研修計画の作成、患者が増えた場合の対処法も自分達で決めていきます。


  重要な判断は全て担当者レベルで決めることで、患者と看護師の間では、単なるケアとは違った深い信頼が築かれ、患者は一人の人間として尊重されている、と感じるようになった、という評判が地域の中で広がっていきました。それでも、同社が1患者さんあたりに必要とした介護時間は、他の介護組織より40%近く少なく、しかも病気から早く治り自立していることがコンサルティング会社の調査で明らかになったのです。


  このコンサルティング会社の試算によると、仮にオランダ国内の全介護施設がビュートゾルフと同様の成果を上げた場合、毎年20億ユーロ近くが節約できることが分かったのです。この2006年にわずか10名で設立されたティール型組織の素晴らしい成果は上記の生産性の向上だけに限りません。この成果同様に素晴らしいのはビュートゾルフの看護師さんが仕事に対する使命感と誇りを高いレベルで感じていることです。他の介護施設に比べ欠勤率が60%も低く、離職率も33%低いのです。このため、他の介護施設からの転職希望が後を絶たず、2013年には、オランダの地域看護組織で働く全看護師の 2/3をビュートゾルフの看護師さんが占めるまでになったのです。


  前述した通り、ビュートゾルフのチームには上司(管理職)が存在しません。チームの方針や優先順位、問題分析、計画立案、メンバーの実績評価などの決定はファシリテーターや地域コーチと呼ばれる会議の進行役や、看護師経験豊富なアドバイザーなどの協力者が、その時々の問題や議題に対する解決の方向性を提示し、その提示案の中からのベストの選択をメンバー同士で編成された自治組織が決定します。


  このビュートゾルフの例をみると「ティール型組織」は、ヘルスケアや教育など非営利部門や専門のサービスを提供する組織だけにみられるように思われるかもしれませんが、実は、自動車部品や電気モーター部品、医療用機器などをつくっている会社でも見ることができます。1950年代後半に欧州で水道の蛇口用部品をつくる会社として創業された会社、FAVIがそれです。一見すると、この会社の工場では、普通の工場で見られるような、作業員が懸命になって多種にわたる小型部品を積み下ろし自分の持ち場へ持って行き、単調な部品生産を行っているだけのように見えます。


  しかし、同業他社が人件費節約の為、生産拠点を中国へシフトする中で、FAVIだけは欧州に残り、過去二五年以上にわたり納期遅延もなく、ギアボックス・フォークで50%の市場シェアを持っているのです。さらに、景気変動や中国産の部品との競争にさらされているにもかかわらず、従業員の給与は業界平均を遥かに上回り、高い利益率も維持。従業員の離職率も事実上ゼロなのです。


  このFAVIの運営方法は、15-35人からなる1チーム を単位に、特定顧客や顧客カテゴリー向けの業務に特化。前述のビュートゾルフと同様、仕事はチーム単位に自主経営(セルフマネジメント)され、作業係長、課長、製造部長といったミドル・マネジメントは存在せず、自分達でルールや手続きを決め、それに従い行動します。また、管理部や営業部といった独自の部は存在せず、その代わりそれらの仕事は、各チームの仕事の一部として割り当てられています。そのため、担当者レベルが自主的に判断し行動するため、「指示待ち」といったことがないのです。


  ティール型組織についての特徴や詳細は本書を読んで頂きたいのですが、フレデリックは、ここでティール型のキー・ポイントをいくつか挙げています。まず最初が、「自主経営」。大組織にあっても階層や上司からのコンセンサスに頼ることなく仲間・同僚との関係性の中で判断し行動すること。二つ目が、「全体性(ホールネス)」。働く人々が自主性と責任感を持ち、チーム全体で高い成果を達成するための精神性や合理性で行動すること。三つ目が「存在目的」。二つ目キー・ポイントである「全体性」を基礎に、組織それ自体が生命と方向性を持っているように行動し、組織全体が明確な目的を持つことを大切にする。


  「サステナビリティー」という言葉が環境配慮の観点から最近社会で一般的になってますが、この環境配慮のエコシステムを会社という商業組織へ取り入れようというのが、つまりはこの「ティール型組織」というように個人的に感じます。利益獲得という目的を通して社会に貢献する組織(会社)を一つのエコシステムと捉え、仕事への情熱やプライドを持つ従業員全体が、「全体性」という意識づけの中でボトムアップで明確化された「存在目的」のために「自主経営」を行う組織なのだと理解しました。


  本書でも指摘されていますが、昔から人間がつくってきた「組織」というのは、いつでもそのヒエラルキーの頂点である支配者が組織全体の行動を「恐れ」をもって支配していることを指摘しています。特に縦割意識が強い組織では、どんなによいアイデアや意見でもそれがボトムから上へ送られることはありません。そこには、「アップ」が心理的な威圧感、つまり「恐れ」で「ボトム」を支配しようとし、「ボトム」はその威圧感を感じることで己の思考・行動に制限をかけてしまう、という心理構造が支配しています。


  一方、この「ティール型」では、組織が全体的にフラットな構造になっているため、それぞれの個性、考え方の違い(多様性)を認め合いやすい環境になっています。このような環境下では、それぞれが自分らしく、個性や才能を認めあえ易い状況が生まれることで、メンバーそれぞれが、自分の成長を意識し、それが組織全体の成長につながっていく、という心理構造が生まれるのです。当然ですが、このような、組織では、「ボトム」に属する人たちが常に自己の向上を目指し、精神的にも、知識的にも高いレベルであることが必要とされると思いますが、例えば、学校の先生方の「過重労働」、また、「働き方改革」や「ワークライフバランス」といった個人の仕事とプライベートの両立といった問題が叫ばれている日本の社会組織にあって、この「ティール型組織」は、これまでの組織形態に新しい価値観と可能性をもたらす一考に値するものと思いました。

   (*)オランダ語で「地域看護」の意味


Hisanari Bunko

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