ブルー・オーシャン戦略

  最近、ビジネス書を読むとひんぱんに「ブルー・オーシャン」という言葉がでてきます。 以前から、気になっていたので先日、読んでみました。 「ブルー・オーシャン戦略」(著者/W.チャン・キム、レネ・モボルニュ)です。

  まず、「ブルー・オーシャン」と対立する概念に「レッド・オーシャン」という言葉があります。この「レッド・オーシャン」とは 今日の産業市場のすべてを表します。(今我々の周りに普通にある市場です。)

  普通の商品市場(レッド・オーシャン)では、一般的に技術進歩のスピードが速まり、生産性が目覚ましく向上したため、企業はかつてないほど多彩な製品やサービスを生み出せるようになり、その結果、需要を供給が上回るケースが広がっています。さらに、グローバリゼーションの潮流がこれに拍車をかけ、その結果、製品やサービスのコモデティ(高品質だが付加価値がない、汎用化された製品、個性のない製品)化、価格競争、利益率の縮小などが加速してきました。(要するに「高品質、薄利多売」ですね。)さらに、 最近(といっても、本書初出版の 2005年頃ですが)の各産業別に行われたアメリカの主要ブランドに関する調査でも、主だった製品・サービス分野では価格重視傾向が広がり、「ブランド」ごとの違いが狭まりつつあること(つまり「ブランド価値」の減少傾向)が確認されています。

  つまり、言い方を換えると、技術進歩のおかげで、どの会社も作る商品は高品質(ではあるが個性のない製品)になり、また、グローバリゼーションのおかげで世界で一番安く作れるところで生産ができるようになったのです。さらに、(その結果というべきでしょうか)「ブランド」も以前ほど価値を持たなくなってきているのです。

   以上の理由から、 各会社は、ますます生き残りを賭け、限られたパイの中で目の色を変えてシェアの奪い合いを行うようになります。著者はこの市場でのせめぎあいを「血みどろの戦いが繰り広げられ、海が赤い血潮に染まっていく『レッド・オーシャン』」と比喩しています。

  一方の「ブルー・オーシャン」とは、いまだ生まれていない市場、未知の市場空間すべてをさします。 市場として未開拓であるため、企業は新たに需要を掘り起こそうとする。 利益の伸びにもおおいに期待が持てる。ブルー・オーシャンの中には、これまでの産業の枠組みを超えて、その外に新しく創造されるものもあるが、大多数はレッド・オーシャンの延長として、つまり既存の産業を拡張することによって生み出される。

  「ブルー・オーシャンでは競争は成り立たない。なぜなら、ルールが決まっていないのだから。  企業はレッド・オーシャンでの競争に明け暮れるだけでなく、新たな利益機会と売上機会をつかみ取るために、ブルー・オーシャンを切り開いていかなくてはならないのだ。」

  (「ブルー・オーシャン」うーん。。なんとなくいい感じですが、でもまだ、なんとなくわかりませんね。。)では、ブルーオーシャン戦略の土台とは何でしょうか?

  それは「バリュー・イノベーション」と呼ばれるもので、ライバル会社を打ち負かそうとするのではなくむしろ、買い手や自社にとっての価値を大幅に高め、競争のない未知の市場空間を開拓することによって 競争を無意味にするものである、として、本書では「シルク・ドゥ・ソレイユ」を最初の例に挙げています。

  「サーカス」というエンタメは、かつてはエンタメの花形でしたが最近は、都会でのライブ・エンタメ、スポーツイベント、家庭での娯楽等の普及、さらに、サーカスで芸をする動物たちの使用に対する動物愛護団体からのクレーム、等の理由で斜陽産業になってしまったのです。 しかし、「シルク」はその従来の (古い)「サーカス」という概念に、新しい価値を付加し(または現代にアピールしない要素はそぎ取り)「新しい娯楽体験」を創造したのです。(ちなみに、シルクが旗揚げした当初の興行タイトルには、「サーカスの再発見」というものがありました。)

  シルクは、現代の観客にアピールしない、花形パフォーマーの演技や、動物ショーなど、古い要素を取り除き、その代わりに「テーマ性」や「洗練された環境」「芸術性の高い音楽とダンス」など、新しい価値観を加え、観客へ「新しいエンタメ」として提示したのです。結果として「シルク」は今日まで(2005年まで)に、世界90都市の約四千万人の人々を魅了し、サーカス業界に君臨するリングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリー・サーカスが、100年以上をかけて達成した売上高をわずか二十年足らずで達成したのです。本書では「シルク」の他、「巻末に「ブルー・オーシャン戦略」の具体例として、「自動車産業」「コンピューター産業」「映画産業」を挙げています。

 (最近では、レッド・オーシャンの罠を避ける誤解他、初版発行後に読者から提示された疑問に対する答えが加わった「新版」や、世界中のブルー・オーシャン・プロジェクトの成功例、失敗例を、比較・分析した「ブルー・オーシャン・シフト」というタイトルも発行されています。)


Hisanari Bunko

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