僕らが毎日やっている最強の読み方

  高度情報化時代と言われる現代社会。いろいろなメディアから発信される情報は玉石混淆(ギョクセキコンコウ)です。

  最近では、ネットから拡散される真偽の怪しい「フェイクニュース」が話題になりました。   では、新聞、書籍、テレビ、ネット、SNS 、、など情報過多の現代、ビジネスパーソンはどうすれば時間のロスなく、適切なフィルターをかけながら、有用な情報の源泉をみつけ、管理することができるのでしょうか? ー そんな情報の獲得・管理に関する一つの回答が、この本「僕らが毎日やっている最強の読み方」です。佐藤優氏と池上彰氏との共著です。

  佐藤優氏は元外交官で文筆家。ロシア情報収集・解析のエキスパート。作家としての著書多数。一方の池上彰氏はジャーナリスト(元NHK勤務。1994年から11年にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍)。要するに、お二人とも日々収集する情報が即メシのタネになる方々です。そのためか、情報取集や情報管理に対する姿勢がハンパないです!

  まず、本書のいいところは、佐藤優氏、池上彰氏の「研究室」「仕事場」「本棚」「仕事アイテム」「愛用グッズ」の写真が掲載されていることです。整理されている新聞棚、また、本棚に並んでいる書籍のタイトルの数々がチラッと見えますが、それだけでもなんとなく、お二人の知性の源泉を垣間見られるようです。

  本書はおおまかに、「新聞」「雑誌」「ネット」「書籍」「教科書・学習参考書」の5つの情報源について選び方、読み方、使い方、保存方法、、などなどお二人の持論が展開されています。

 「すごい!」と思うのは、お二人ともとにかく、毎日チェックする情報量が圧倒的に多い、ということ。新聞について言えば、毎日、池上さんが読んでるのは11紙、佐藤氏が10紙、これは日本版で、この他、池上さんは海外版「フィナンシャル・タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」の二紙、佐藤氏はロシア系の海外版を二紙購読しているのです! どうして「新聞」かというと、「今でも新聞が世の中を知るための基本かつ最良のツールであることは、今も昔もかわりません。」(佐藤氏)、「日常の情報源としてやはり優れている。そしてその『一覧性』において優れているものはない。」(池上氏)からです。

  では、普通の一般人もそれだけ読むことが必要かというと決してそんなことはなく、(新聞の情報取得については、)「一般的なビジネスパーソンなら一紙で十分」「見出しを見て、読むかどうか迷った記事は読まないこと。」(佐藤氏)、「(新聞は約20万文字、新書にして2冊分の量があるので、)新聞はあくまでも『飛ばし読みが基本』です。」(池上氏)と言うことですので、ご安心を。

 「書籍」についてはどうでしょうか?

 「いくら新聞、雑誌、ネットを熱心に読んだところで、土台となる基礎知識が抜けていると、自分の頭でニュースや記事を深く理解することはできない。世の中を理解するには書籍がベース。いい基本書を熟読すること。基礎知識は書籍でしか身につかない。」(佐藤氏)、「世の中で起こっていることを「知る」には新聞がベース。世の中で起こっていることを「理解する」には書籍がベース。」(池上氏)

  最近、ネットのせいでリアル書店が減少している、と言われてますが、書店については「関連書籍を探したい場合は、やはりリアル書店に足を運んで棚を見るのがいちばん速い。書店の棚を見ているだけで、本当にどんどん興味が広がっていく、書店に並ぶ本の書名と帯を見るだけで勉強になる。。」(池上氏)、「『失敗しない本選び』には書店員の知識を活用するといい」(佐藤氏)と言っています。そして、「いい本に出会うためのコツは一つ『本をたくさん買うこと』なので『迷ったら買う』を原則としている。。本の費用対効果は非常に高い」(池上氏)、「もちろんハズレの本もあるが、それでも本から得られる情報は『安い』、どの分野の本でも、本一冊に書かれたものと同程度の情報を人を通して得ようと思ったら食事代や謝礼など、本代の何倍もの費用がかかる。」(佐藤氏)。。。さすが「情報」で生活されているお二人。しろうとではわからない貴重なアドバイスばかりです。。。

  そして論理的な思考力を身につけるのは、難解な本と格闘する経験が必要不可欠として、「古典」を読むことの必要性を述べています。ちなみに池上さんは以前「世界を変えた10冊の本」というタイトルの書籍を出版していて、その中で「アンネの日記」「聖書」「コーラン」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」「資本論」「イスラーム原理主義の『道しるべ』」「沈黙の春」「種の起源」「雇用、利子および貨幣の一般理論」「資本主義と自由」を紹介しています。(なんか以前紹介した「日本3.0」の中のアメリカの大学の推薦本とタイトルが重なるのは、洋の東西を問わず、知性の源泉は同じところにある、ということなのかもしれません。

  「書籍」について、「佐藤氏すごいな、、」と関心するのは「超速読」「普通の速読」を使い分けて「月300冊読破」を目標にしていることです。そして、お二人が共通して言っているのは、仕事終わった後、「お酒はなるべく飲まない。」「飲むと読書できなくなる。」ということです。(情報獲得、知性の鍛錬、、、仕事以外のプライベートでも気を抜かず、昔の武士のように、孤高に日夜、刀を磨いているんですね。。。)

  尚、電子書籍については、「まず紙で買って読むべき。しかし、サブ的に電子書籍を使うとにより効率的に知識を吸収できる。」(佐藤氏)として2冊目を電子書籍で携帯すること勧めています。そして、電子書籍に関しては電子書籍専用端末(キンドルなど)の使用を勧めています。「スマホやタブレットは絶えず『ネットサーフィンの誘惑』『SNSの誘惑』がある。『ネット断ち』ができるツールのほうが時間泥棒のリスクが少ない。」孤高の読書家、佐藤氏も我々凡人が陥る誘惑と日々、戦っているんですねえ。

  ネットニュースについては先ほども書きましたが「ネットの情報は玉石混淆で、そこから『玉』だけを選ぶのは、かなりの知識とスキルが必要」(佐藤氏)。そしてネットニュースの欠点について、「新聞や雑誌が持つ『編集』と『校閲』という重要な2つの機能が欠如している。」ので、「自己中心的な意見や偏見のある記事や誤字脱字どころか明らかに事実関係を間違えている記事もある、さらにそういった情報がツィッター、フェイスブックで安易に拡散する人がいることにも注意が必要。」(池上氏)と注意しています。(これって正に「フェイクニュース」のことですね。)

  最後に、意外だなと感じたのは教科書や学習参考書の大切さです。教科書についてはたまに、文部省の検閲問題?がニュースで取り上げられていますが、、「しっかりした土台の上に積み重ねてこそ『情報』は『知識』となり、それを繰り返すことで『使える知識』『教養』になる。」(池上氏)として、「基礎知識を強化するには、小中学校の教科書が最適。中小学校の教科書で『知の型』『思考の型』を身につけること。」そして、「教科書というのは、次世代を担う若者が知っていなければならない知識や思考法が詰め込まれている。」(佐藤氏)としてビジネスパーソンにも特に「公民」「歴史」「国語」「英語」の教科書を手に取るよう勧めています。

  以上、私が感心したところをピックアップしましたが、他にも「国内サイト」一覧表とか、お二人が読んでいる「新聞・雑誌リスト」だったり、特別付録としてお二人の情報を扱う「極意」が簡潔にまとめてあったりで、とにかく出し惜しみしない姿勢に好感が持てます。良く言えば、読者に対するお二人の「誠意」「懐の広さ」を感じますが、でも、もっと深読みすると、情報に関しての絶対の自信なんかも感じられ、それは同時に読者に対し「俺たちについてこられるか?」とか、「情報はここまで管理してこそ活きてくるのだ。」と挑発、挑戦しているようにも受け取れ、私的には刺激を受けました。

  お二人が書斎や研究室で新聞を読んだり、書籍に向か合っている時は、正に情報と「真剣勝負」をされているのだろうと容易に想像できます。お二人の「知性」や「情報獲得」に対する、ひたむきで、どん欲でなまでの渇望感、圧倒的な熱意、情熱が感じられ、普通の情報ガイドブックとは一線を画している良書だと思います。




Hisanari Bunko

読書評ブログ