ビル・ゲイツの面接試験 富士山をどう動かしますか?

  限られた時間で、有能な人材を獲得しなければいけない会社の採用試験。短い時間で会社の将来を担う人をどう見つければいいのでしょうか??    

  会社の面接に関しては興味深い実験があります。昔、ハーバード大学で二人の心理学者が実験を行いました、その目的は「有能な教師(とそれ以外の教師)を分ける要素は何か?」を探ることでした。心理学者は、「(その要素は)教師の非言語的な合図やしぐさではないか?」と考え、10秒だけの無音のビデオクリップ(はじめ教師と生徒とのやりとりを録画したがその後、生徒とのやりとりの部分は削除され、教師の動きや反応だけのクリップに編集された)をつくり、そして、その教師を評価する人にビデオクリップを見せて、15項目のリストについて教師判定を行ってもらいました。この心理学者はさらにそのクリップを短くして、2秒のものをつくったのです。意外なことに、その2秒間のビデオクリップでも10秒のものでも教師の評価は同じでした。

  さらに同じ教師について、半期間授業を出席した生徒に教師の評価をしてもらい、その結果と、さきほどの2秒ビデオの判定結果を比較したのです。驚くべきことに、その比較の結果も同じだったのです。

  つまり、2秒のビデオに基づく評価と、半期の授業に出席していた学生の評価とほとんど同じだったのです。(本来、実際の授業に出席した学生の方が、無音のビデオから評価した判定者よりずっと多くのことを、その教師について知っているはずですが、それは全く関係なかったのです。)

  要するに、上記の実験でわかることは「人は会った人物についてたった二秒で即決の判断をする。- その人物が話す内容による判断は(あまり)関係ない。そして、最初の二秒後に起こることで、判定者が第一印象を有意に修正することはほとんどない。」ということです。                   

  ただし、上記の試験は、学生のボランティアが行った教師の評価試験でした。もっと新しい実験に、雇用状況を直接扱った研究があります。これは二人の面接担当者に定番の面接試験技法を六週間教え、98人のボランティアについて一人15分~20分で面接を行い、その後、その二人の面接担当者が面接相手を評価(①)します。

  その時、もう一人の別の学生は、応募者が部屋に入るところ、面接担当者と握手する所、座るところのおよそ15秒を撮影し、応募者を評価(②)しました。驚くべきことに、ここでもその二つ(①と②)の評価にはさきほどの試験と同様、強い相関関係があったのです!! 

  この実験でも、相手の評価を決める要素はノンバーバル(非言語的)な、つまり、外見的な要素が強く、バーバル的(言語的要素は)は比較的重要でない、という結果になりました。

    このように、第一印象(や外見)が、採用の合否に大きな影響を与える可能性のある従来型の面接試験に対し、一つの示唆を与えてくれるのがアメリカのマイクロソフト(Microsoft Corporation)の面接試験です。

  マイクロソフトの採用試験の面接手順は独特で、まず、人事担当者が電話で志望者と話をし、志望者を振り分け、手ごたえのありそうな志望者についてはマイクロソフトの負担で本社へ呼び寄せ、1日がかりの面接試験を行います。通常6人の現場の社員が行うこの面接は、パズルや頭の体操的な問題が出ることで有名です。しかし、通常は6人全員が面接する前に、合否が決まってしまうので、最初の4人ぐらいで終了するケースが多いとか。    

 「マイクロソフトの人々は、パズルは平等だと言う。どこの学校へ行ったか。前にどこへ勤めていたか、何を着ているかは問題にならないという意味で。大事なのは論理であり、想像力であり、問題を解く能力である。」(アメリカでも日本同様、最近は会社の採用面接において面接者に聞いていいこと、不適切なことがガイドライン化されているため、面接官が直接聞きたい質問も聞くに聞けない、という事情もあります。)

  本書「ビル・ゲイツの面接試験 富士山をどう動かしますか?」は、そのようなマイクロソフトの異色の面接から、その面接で出題されるパズルの内容、出題意義などが書かれています。また、パズルがどうして会社面接に採用され始めたのか? や、パズルが会社面接に採用された歴史など興味深い話題も盛り込まれています。中でも面白いのは、実際にマイクロソフトやほかの会社面接で実際に採用されたパズル問題とその解説回答の箇所です。

  ちなみに、パズル(または、レドモンド式面接)を採用試験として扱った前例としては、ベル研究所から独立し1955年にカルフォルニアのマウンテンビュー(シリコンバレー)で会社を設立したウィリアム・ショックレーが才能ある人材を採用するのに使った、という実績があります。(採用された人材に中には、後年インテル会長になり、「ムーアの法則」を提唱したゴードン・ムーアもいます。)マイクロソフト、インテルと、ここまで書くと何となく、IT(ソフトウェア)業界の面接試験とパズルは親和性が高いことがわかります。でも、どうして志望者のポテンシャルがパズルでわかるのでしょうか??

  本書によると、論理パズル(クイズ、「解けない問題」)を出題する理由は、マイクロソフト場合、「個々の能力よりも汎用的な問題を解く能力を探るため。」なのです。「マイクロソフトでは、(また今日の他の多くの企業でも、)パズルを解くために用いられる推論と、発明や変動する市場の現実の問題を解くときに用いられる推論とには 平行関係があると信じられている。パズルを解く人も、技術革新をする人も、最初は明瞭でない状況から、その根幹をなす要素を特定できなければならない。 どういう推論が必要か、問題の正確な範囲はどうなっているか、明瞭な場合はほとんどない。 それでも、解こうとすれば、分析を、その時々にふさわしい、うまくいく結論に持っていけるまで、それにくらいつかなければならない。」 のです。

 「レドモンド式面接の利点は、やる気と粘りを調べることである。 うまく答えられる人は、頭がいいだけでなく、粘り強くなければならない。その点で、論理パズルは、類推、同義語、分析の完成課題などの知能検査項目よりも、職場での成果を予想するものとして優れていると言われる。。。。 マイクロソフト式面接の要領は、ハイテク市場の圧力の産物だ。ソフトウェアはアイデアであり、組み立てラインではない。そのアイデアもつねに変化している。 ソフトウェア会社の最大の資産は、才能ある労働者である。」

  ということで、最後に問題です!

「富士山を動かすのに、どれだけ時間がかかるでしょう?」

                                                                                                                   (。すまりあに092P書本はえ答)