ユダヤ古代誌2

ユダヤ古代誌の第2巻では、モーセの死後、ユダヤの民の指導者になったヨシュアがカナンの地へ侵入・征服し、彼の後、指導者が次々に交代していく時代(士師時代)が続きます。(この時代には有名なサムソンのエピソードがあります。)、そして預言者サムエルが登場し、イスラエル初代王サウルが誕生、そして有名なダビデ王からその息子、ソロモンの即位までが語られます。


  モーセの後を引き継いだ指導者・ヨシュアに率いられたへブル人の人々は、神の助けを借りてヨルダン川を無事渡河することに成功し、カナンの地へ侵入します。

【士師時代】  

当時、カナンの地やその周辺には、地方毎にいくつかの民族が住んでいましたが、神やモーセ約束においてこのカナンの地を攻略し、カナン人やペリシテ人全軍を全滅に追い込みます。戦いが終わった後で、ヨシュアは、イスラエル部族、ユダヤ部族毎に土地を分け与えます。ヨシュアは110年の人生をまっとう。また、大祭司エレアザルも死去。大祭司の職はその息子のピネハスが継承します。


  このヨシュアの死後、預言者サムエルの登場に至るまで、他民族の侵略を受けたイスラエルの民を英雄たちが救っていく約400年におよぶ時代を「士師時代」と呼びます。この士師時代、指導者は次々に代わっていきますが、人民を治めるのは、神からの預言を受けた指導者で、彼は神の言葉を権威として人々を統治します。(つまり、神から信任された為政者として人々を統治します。)そのため、王国のように、一人の王が強権を持って人々を支配する、という統治方法と性格がまったく違います。そして、アブドンの治世の後、イスラエル人はペリシテ人(*)の征服に遭い、以後40年間ペリシテ人から貢納を強制されます。このぺリシテ人からイスラエル人を救った英雄がサムソンです。


  彼はデリラという一人の女性を愛しますが、彼女はペリシテ人にそそのかれ、彼の唯一の弱点である頭髪をかみそりで切り落とし、彼を敵に引き渡します。両眼をペリシテ人によってえぐられたサムソンは鎖につながれ、牢で粉をひかされるようになります。しかし、彼の頭髪が伸び始めたことで彼の力が復活。ペリシテ人のお祭りの日、彼は酒の席のなぐさみとして、3000人もの人々が楽しんでいる宴会場に引き出されます。ここでサムソンは怪力を発揮。渾身の力をこめ会堂の列柱を倒し、自分を含む宴会の出席者を道連れに会堂を破壊します。このエピソードは、「サムソンとデリラ」という有名なお話となり後世に伝えられます。


  サムソンの死後、預言者サムエルがへブル人の指導者となります。彼は民を再分割し、その割り当てられた町に法廷を置き、彼はそれらの町を毎年巡回して裁きを行っていく、というやり方で、長期間の秩序を保つことに成功します。(P119)しかし、サムエルは高齢で体が思うように動かせなくなると、二人の息子ヨエルとアビヤに民族の統治と指導を委ね、民を二人の管理下に置きますが、しかし、この二人の若者は有徳なサムエルとは全く逆の性格で、賄賂や現金授受など行い自分たちの利得に基づく判決を下すようになります。


  このようなサムエルの息子たちの不法行為に憤慨した民は「へブル人の民族を統治するため、我々に王を選んで欲しい。」とサムエルに訴えます。貴族政治こそが人々に幸福をもたらすと信じているサムエル。彼が思い悩んでいる時、神が現れます。そして、もし、彼らが王政における統治支配を望むなら、人々がいかなる苦難を味わうことになるかを教え、その後、私が名前を挙げる者を彼らの王に据えよと、とサムエルに告げます。


【イスラエル王国初代王・サウルの統治】

  王政の欠点について、サムエルがいくら話しても納得しない人々。サムエルは、集まった人々にくじを引かせます、その結果、神の意志を通して、ベニヤミン部族の若者のサウルがイスラエル王国の初代王として統治することに決まります。当初は、息子ヨナタンや家臣たちと共にイスラエルを率いて、ペリシテ人や周辺民族に対し勇敢に戦い、神の信を得ていたサウル。 ある日、神はサムエルを通して、アマレク人の殲滅(せんめつ)をサウルに命じます。そして「勝利の暁には彼らの一人として生かしておいてはならね。女や乳飲み子、年齢のいかんを問うてはならない。お前たちはモーセの命令にしたがって、アマレクの名をこの地上から完全に抹殺するのだ。」サウルは早速、イスラエル人40万人とユダ部族3万の兵を率いてアマレク人の土地へ侵入。神の言葉通りに女、子供を含むすべての市民を虐殺しました。彼はこの虐殺を人間の本性に反することなどとは全く考えませんでした。なぜならそれが神の御意であったからです。しかし、その彼も敵の王アガグを捕虜にして対面した時、過ちを犯してしまいます。サウルは、アガクの美しさと背丈に讃嘆し、これは救うに値する人物だと思い込み、情に負けて彼を助けてしまいます。神はサウルが自分が与えた力によって彼が敵を征服し、勝利を得たにもかかわらず、その彼が自分に対し人間の王にさえ見せないような侮りと不服従の態度を見せたことに大きな侮辱を感じます。サムエルはサウルに告げます。「早晩、お前は王位と権力を奪われる。お前がそれを軽視してそれを悪用したからだ。」 そして、アガグの処刑を命じるのでした。


  サウルをあきらめたサムエルは、神の言葉によってひそかにエッサイの子ダビデに油を注ぎます(王権の授与)。ダビデはペリシテの最強戦士ゴリアテを討って有名になりますが、サウルはこの名声をねたみますが、ダビデは竪琴の名手としてサウルに仕えることになります。このようにして、サウルの嫉妬が始まります。幾たびとなくダビデを殺害するチャンスを得るサウルですが、かつては、神の信任を得ていた身。神のことを思うとダビデを殺すことには躊躇します。そのサウルはペリシテ軍との戦いの途中、ギルボア山で息子たちと共に追い詰められ、剣の上に身を投げて自害しようとしますが、死に切れません。そして近くにいた若者に剣を渡し、一思いに自分を殺すよう頼みます。望み通りに一思いにサウルの命を絶った若者は、サウルの亡骸から王冠と黄金の指輪を奪い姿を消します。

サウルの手にかかり、何度も危うく命を失いかけたダビデですが、彼の死の知らせを知ったダビデはその死を悲しみ高貴な精神と忠誠心を示し、サウルに手を下した若者を処刑します。そして、ついにダビデはユダ部族により王に選ばれます。


【ダビデ王の統治】

  ユダの一族を率いたダビデは、ユダ一族を除くイスラエル人民の王となったサウルの息子イシボテセの軍勢と戦いを繰り返しますが、イシボテセは2人の家臣に昼寝中に裏切りに遭い殺害され、その首はダビデのもとへ運ばれますが、ダビデはこの2人の主人イシボテセにツァイスる裏切り行為を強く非難し、あらゆる拷問を加えた後、処刑します。ここにおいてダビデは全部族からの支持を得るに至り、ヘブロンでイスラエル全部族の王・指導者となり、3日間の祝宴後、全兵士を率いエルサレムに進撃。エブス人を追い出し、そこをダビデの都と呼びます。


【ダビデ王の治世と晩年】

  ダビデが全イスラエル人の王となったことを聞いたペリシテ軍は、ダビデ軍を戦いを繰り広げますが、神の援護もあり、彼らを撃破。打ち破り、キリアテ・ヤリム(森の町)から神の契約の箱をエルサレムに運ばせます。そして神へ感謝を捧げ、神の契約の箱を安置する場所として神殿の建設に熱意を示しますが、神は預言者ナタンを通してダビデはこれまでの戦いで敵の血で汚れていること、ダビデにはソロモンという名の息子が授かり、彼が王権を継ぎ神殿を建てることを預言します。ダビデはその後、次々に近隣の民族を打ち破り彼らを自らの配下に収めていきます。


  ダビデは晩年、家臣ウリヤの妻・バト・シェバを無理やり自分の妻とし、男の子が生まれますが、神は家臣の妻を無理やり自分の妻としたダビデを罰し、この男の子の命を奪います。(生後数日で病死。) ダビデは自分の犯した罪を預言者ナタンから責められ、悔やみます。そして、この後、バト・シェバとの間に生まれてくる子がダビデの次の国王となるソロモンで、本書はこのソロモンの国王即位後、ダビデは、息子に治世の間に神殿建設を行うよう指示して70の生涯を閉じます。


  ユダヤ古代誌の第1巻は、ほとんどが神話的なエピソードが多かったのですが、この第2巻では、ユダヤの人々がカナンの地へ進出し、その地域に住んでいた人々を神の庇護により制圧し、代わってその土地の定住者となっていく様子が描かれます。このお話を読み進めていくだけだと、彼らが実際のパレスチナのどのあたりに進出し、どのあたりで、他民族と戦ったのかよくわからないのですが、でも現在のイスラエル・パレスチナの地であることはよくわかります。ユダヤの人々はこんなにも前からこの土地の定住者となるために戦っていたのですね。。また、本来、神は他民族にも公平だと思うのですが、その神がユダヤの人々をこのパレスチナの地に定住させるために、もともと住んでいた部族に戦いをしかけることを肯定している、という記述も他民族である自分にとってはちょっと気になる点ではありました。(まあ、現代と違ってこの時代の人々の世界観は、どこでも自分たち民族が中心で、世界の中心は自分たちだ、という意識だったのだと思いますからそれもやむを得ない。。つまりは、ここにはユダヤの人々の世界観なり、神に対する思いが反映されていると考えた方が納得できるのかもしれません。


  それから、ダビデ王、とかソロモン王とかイスラエル王国の統治者がでてきますが、このダビデ、ソロモンといった名前もよく聞いますが、旧約聖書の登場人物だとは知りませんでした。また、彼らがどのように旧約聖書に語られているのかも今回よくわかりました。それにしても、西暦前のそれもほとんど神話である世界から自分たちの由来や民族移動のようなエピソードに至るまで、自分たち民族の歴史を語り継ぐことをしてきたユダヤ人という人々はすごく誇り高く、学識が固く、また知恵者であることが実感できました。

ペリシテ人(*)古代ギリシアのエーゲ文明からの移民民族


Hisanari Bunko

読書評ブログ