ライフシフト 100年時代の人生戦略

  「いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつまりでいたほうがいい。」という、ちょっと衝撃的な書き出し(「日本語版への序文」)から本書はスタートします。 (以前、総務のプレゼンでも紹介しましたが、このブログでも再度紹介します。リンダ・グラットン氏、アンドリュー・スコット氏の共著「ライフシフト」です。)この文章を読んだだけでもすでに「100年ライフは他人ごとではない。」というメッセージがストレートに伝わってきます。

  「過去200年間のほとんどの期間、(人間の)平均寿命は右肩上りで延びてきた。(出典:Human Mortality Datebase)1840年以降、最も長寿の国の平均寿命は1年に平均3ヶ月のペースで、つまり、10年毎に2~3年ずつ寿命が延びている計算だ。19世紀半ばの平均寿命の推移をまとめて、(中略)時系列でグラフ化したところ、ほぼ一直線に上昇する線が描かれた。しかも当分はこの傾向が続く。日本では2007年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きると予想され、更に、2014年生まれの子供の場合その年齢は109歳だ。」(本書P42)

  昔、織田信長が「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり、、」と敦盛を舞い、その当時の日本人の平均寿命から「人生50年」ぐらいを節目として考える人が多いのではないかと思います。(注:ただし、本来の意味は、「人の世の50年の歳月は下天の一日にしかあたらない、夢幻のようなものだ」という意味で、人の一生が五十年と言っているわけではありません。 Wikipediaより)

  自分も以前まで何となく、頭の中に「信長は人生50年か、、」と信長公が亡くなったのが49歳の時でもあり、50というのが人生の一つの区切りのように漠然ですが考えていました。しかし、本書を読むと、特に先進国は急速に人生100年時代に移行しつつあることがわかります。そして、(日本においては)社会で人生戦略の見直しを喫緊に迫れられいるのが、私のようになんとなく「人生50,60年一区切り」と考えている50代、60代世代の方々だと感じました。それらの世代の方に(本書は)特にお勧めです。

  まず本書が優れている点は、今後の高齢化社会のイメージを、読者にわかりやすく提示していることです。本書では、そのため、ジャック(1945生まれ)、ジミー(1971生まれ)、ジェーン(1998生まれ)という第二次世界大戦後から 2000年直前に生まれた3つの世代の3人を登場させ、各人のライフスタイルの変化を説明しています。要約すると、ジャック世代は、「教育→仕事→引退」という3ステージの人生が機能していた世代。ジミー世代は、平均寿命の延びにより(ジャック世代で機能していた)3ステージライフが徐々に機能しなくなります。平均寿命の延びにより仕事を引退できる年齢が徐々に引き上げられ、また、仕事の期間が長期になるため、学生時代に学んだ「スキルと知識」を更新していくことが必須になります。以前学んだ「スキルと知識」をバージョンアップ、または新しい「スキルや知識」が習得できれば仕事を変えることもでき、更には引退時期を延ばすことが可能になります。

  ジェーンの世代は、「ジャック」「ジミー」世代にみられた「3ステージライフ」は完全に機能しなくなります。ジェーン世代は確実に100年ライフを生き抜くことを前提に考えなければならないからです。100年ライフを前提とする人生を生きる場合に必要なことは、もちろん、老後を生きるための「貯蓄」が今より大切になりますし、今まで以上に長くなる人生を快適に過ごすために「仕事」中心のライフスタイルから脱却し、趣味、健康、(仕事以外の)人間関係構築が必要になっていきます。本書では100年ライフを快適に過ごす要素として、金銭や家などの「モノ」ではなく、「健康」「スキル、知識」「(多様性に富んだ)仲間や人脈」「評判」「パートナー」「行動力」などの「無形資産」の資産形成の必要性を強調してます。

  この本の優れている二つ目は、100年ライフを決して悲観的にとらえていないことです。実際、「序文」の見出しは「幸せな国、日本」ですし、その始まりは「日本は世界でも指折りの幸せな国だ。世界保健機構(WHO)の統計によれば、ほかのどの国よりも平均寿命が長い。」という文章でスタートしています。

  日本の最近のいわゆる「少子高齢化」問題については、どんなメディアでも「高齢者医療」「年金」「高齢者雇用」等、「お金」と「健康」の面だけに注意がいきがちですし、某テレビ局のスペシャル番組なんかでも、高齢者の年金問題などを、いわゆる「真面目で(だけど)深刻な社会問題」みたいな切り口で放送し、どうしても見終わった後、 ”暗く” なってしまいます。(といっても、それらの問題を軽視するわけではありませんし、もちろん国民みなさんで解決しなければいけない大切な問題だと思いますが。)

  しかし、実際、「長寿化」について「見逃されている最も大切な変化」とは、以前の、高度経済成長期のような「お金、モノにとらわれた画一的価値観」から「一人ひとりの人間が自分の人生をどう計画していくか?という価値観」への根底的な変化なのです。そして、さきほどもメンションしましたが、人生における「無形資産」の形成の基礎になるのが「個人個人が、どのような人間で、何を大切に生きているのか、何を人生の土台にしたいのか。」ということなのです。 つまり、我々の人生ゲームにおいて「カネ・モノを多く持っている人が勝ち」という考え方から「自分の価値観をしっかり持っている人が勝ち」という「ルール変更」が行われるということです。(言い換えれば、現在疲弊している「日本」という「システム」のバージョン更新(リセット?))です。これこそ、著者が主張している一番大事な点で、まさにその点が、(本書が)日本でいろいろな世代の読者層から支持され、32万部発行されている理由だと感じました。

  これからの時代を生きるすべての日本人にとって必読書だと思います。