日本人が知るべき東アジアの地政学

  最近、韓国の動きがよくわかりません。第二次世界大戦なんかでは、日本はいろいろ大陸で騒動を起こし、それに関しては過去日本の政治家たちが礼を尽くして交渉にあたった経緯があると思いますが、最近の韓国をみると、いつまでたってもボタンの掛け違え(というかそれ以上の考えの隔たり)を感じることがあります。韓国もそうですが、我々の近隣諸国である、中国やロシア、北朝鮮などの国々の動きについてもわからないことがあると思いますが、そういった近隣諸国と我々、日本人との「考えや意識の隔たり」「溝」というのは、「地政学」(*)という学問で考えると、とてもよく腑に落ちます(理解できます)。(*)地政学/Geopolitics:地理的な環境が国家に与える政治的(主に国際政治)、軍事的、経済的な影響を、巨視的な視点で研究するもの。(Wikipediaより)

  というわけで、今回のおすすめ書籍が、この東アジアの地政学を扱った「日本人が知るべき東アジアの地政学」(著者/茂木 誠/もぎ まこと 氏)です。最近出版されている本の中には近い将来の「北朝鮮と韓国統一」新生国家の誕生について言及しているものがあります。例えば、最近の投資家ジム・ロジャーズ(著者)の「お金の流れで読む日本と世界の未来」なんかでも「1980年代以降、中国が外に対して開かれるようになってから劇的な経済成長を遂げたような、同じことが北朝鮮にも起こる。もちろん韓国と北朝鮮にも世界経済の影響は及ぶし、貿易の比重が高い韓国のような国はとりわけ困難にぶつかるかもしれないが、そこまでのダメージにならない。北朝鮮開国による変化がそれだけ巨大だということだ。北朝鮮は恐らく二桁以上の非常に速い経済成長を遂げる。韓国・北朝鮮は今後10~20年の間、投資家に最も注目される国になるだろう。」(P94)と「統一朝鮮」について語っています。本書でも茂木氏は、地政学の立場から「統一朝鮮」誕生の可能性について言及しています。

  「現在の韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は、朴槿恵(パククネ)前大統領の失政を踏み台に高い支持率を保ち、南北統一を最優先する政策を取ってきました。それは体制の形をどうするか?や南北の経済格差問題の解消といった青写真はない『とにかく南北統一』政策なのです。『統一は民族の悲願であり、何が何でも成し遂げる。』という理想論です。」(P131)「貿易相手国としての重要性は現在は米国より中国の方が高くなり、(韓国は)中国との距離を近づけて米国の反感を買っています。文政権は韓国歴代政権のなかでもっとも北との統一を志向している特異な政権です。(中略)『南北統一など夢のまた夢』に見えますが、実際はその反対なのです。多くの日本人の目には、こうした状況は危険かつ非現実的に映りますが、韓国世論がこれを強く支持しているのです。」(P129)と語り、歴史的、地政学的な背景から見ると、このような文政権の北への肩入れの理由を読み解くことができる、と言います。

       もともと「朝鮮」という国家は半島国家で、長い歴史の中で、隣国で強大な大陸国家である中華国家から独立して生存していくため、(中華国家が「明」の時代に)「明」からさまざまな制度を導入したり、朱子学を官学として導入し、いわゆる「小中華」(注1)を志向しました。(一方で、中華国家は唐の時代から、朝鮮王朝(新羅)を冊封(さくほう:注2)します。これ以降、朝鮮半島のすべての王朝は、時の中国王朝に冊封されることになります。)対照的に、朝鮮王朝は、海の向こうに存在する島国日本を「夷狄」(いてき:注3)と見なし、自分たちとは決して対等になれない存在として見下す文化を持つようになりました。(そして、それは現代まで続いていると言っていいでしょう。)この見方で現在の東アジア情勢を考えると、近年の韓国政府の日本に対する対応も納得できます。また、韓国の大学入試シーズンになると、韓国の大学入試偏重問題がニュースで取り上げられます。(よく TV ニュースで、受験生がパトカーで試験会場まで送迎される映像が放送されますね。)これは、元の時代に、朱子学が科挙の試験に採用され、その科挙に合格したものは官僚となり地位・名声・権力を獲得していた文化を考えれば、「現代の韓国の学歴至上主義、大企業主義、公務員主義文化などは朝鮮王朝の朱子学偏重の名残だとみることで納得できます。」(P84)

     「典型的な半島国家である朝鮮半島は紀元前二世紀の漢の武帝以降、たびたび大陸から侵略を受け続けてきました。(朝鮮王朝は)容易に半島内に侵攻してくる強大な勢力には、結局、屈するしかありません。他に選択肢はないのです。」(P42)「そのため、朝鮮は古代から中華帝国の属国でした。モンゴル時代には元と完全に一体化し、日本遠征のお先棒まで担ぎました。『勝ち馬に乗る』というしたたかなリアリズムを発揮してきたわけです。」(P82)ところが「元を打倒した明とは理想的な関係を構築することができ、明にならってさまざまな制度を導入し、安定した国家運営に成功します。この時の朝鮮王朝が導入したのが明の官学である『朱子学』でした。」「その後、清が明を倒し、明の崩壊で孤立無援となった朝鮮は、表面的には清に服属して国を守るしかありませんでした。弁髪の異民族を心底では蔑視し、面従腹背の態度を続けながら、『わが朝鮮は国土は小さいが、滅亡した明の後継者である』と信じ、ひそかに明の年号を使い続けることでプライドを保ったのです。『小中華』思想はこうして生まれました。」(P83)

  我々が大学生の頃、授業の中に「地政学」ってなかったと思いますが、これからのアジアを理解する上においては、東アジアの地政学を勉強することはマストだと思いました。どうして中国があんなに海外進出を進めるのか? なぜ北朝鮮は安保理決議を履行せず核開発にこだわるのか? 。。。この本を読むと、そいうった疑問に対する理解が深まりました。 また、本書では、著者の茂木誠さんについて「予備校で iPad を使って社会の授業をする人気講師」という紹介ありましたが、うーん、、茂木さんって、ただものではないと思います。とにかく素人でも分かりやすく、文中の説明ではあいまいな言い方は避け、文の書き方は明快、また、自分の意見をはっきり各章の終わりごとに提示していることにも感心しました。

  日本人含めて近隣諸国の人々が戦争を望んでいるとは決して思いませんが、我々、日本人も単に「平和主義とか憲法第九条」とか主張するのではなく(結局、彼らにとって日本の主張は、単に先の対アメリカ戦で我々が経験し学んだ「負の遺産、教訓」の押しつけに聞こえるだけなのかもしれません。)我々、小さな島国の日本人が、一生懸命平和主義とか、憲法第九条とかいっても、中国、韓国、ソ連は自国の利益を主張します。ならば我々は何が必要かというと、彼らの歴史、考え方、モノの見方を勉強することだと思います。その勉強のきっかけに本書はとてもいいと思いました。

  本書では、韓国、北朝鮮の他、中国やロシアの地政学も紹介し、最後に日本が地政学上、これから進むべき方向性を提示し、「シー・パワーの日本が果たすべき役割は、東アジアから退いていく米国の穴を埋め、バランス・オブ・パワーを維持しつつ、自由と繁栄を志向する海洋アジア諸国の柱として、リーダーシップを発揮することです。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を成功させ、将来のアジア太平洋版NATOに発展させることです。」(P247)と結論付けます。 うーん。。茂木さんの、論旨には説得力があります。。ただ者ではありませんね。これからの東アジア情勢の論客として要注意です!!

(注1)小中華思想: 自らを中国王朝(大中華)と並び立つ、もしくは、次する文明国で、中華の一役をなすもの(小中華)と見なそうとする文化的優越主義思想。(注2)冊封:臣下として認めること。(注3)夷狄:①未開人、野蛮人 ②外国人をさげすみ、敵視していう語。(ネット辞書より)