本業転換

  本書の副題は「既存事業に縛られた会社に未来はあるか」。本書の「はじめに」で述べられてますが、現代は、非連続的な技術的革新、IT分野の進歩、AI・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の登場などで、多くの産業、あらゆる業種・業界で、“本業喪失”の可能性がある時代です。(実際社名から祖業を示す言葉が消えていった企業は、、キャノン(元キャノンカメラ)、花王(元花王石鹸)、パナソニック(元松下電器産業)、ブリヂストン(元ブリヂストンタイヤ)と数え上げればきりがありません。)ではこういった時代に難しいとされる本業転換はどうやったら成功するのでしょうか?   本書「本業転換」(著者/山田秀夫さん、手嶋友希さん)は、同じ時代に同じ業種で活動を行っていたライバル企業2社の戦略を比較検討し(一方は本業転換できた会社、他方は本業転換をうまくできず倒産・解体されてしまった会社)、本業転換を成功させるヒントを探っていきます。

  以前「ビジョナリー・カンパニー」(著者/ジム・コリンズ)という企業存続の法則を探った本がありましたが、あのシリーズ二冊目「ビジョナリー・カンパニー2/飛躍の法則」で、長年にわたり存続している会社と、それらと同じ時期に創業し、一時はそのライバル会社を上回る成績を上げながらも、時代の変化についていけず消失していった会社の戦略を比較分析して、そこから企業存続のヒントを探る、という内容の章がありましたが、この「本業転換」は、その(ライバル企業2社を比較分析するという)発想を日本企業に置き換えたような内容になっています。本書で取り上げているのは、「富士フィルム vs イーストマン・コダック」、「ブラザー工業 vs シルバー工業」「日清紡ホールディングス vs カネボウ」「JVCケンウッド vs 山水電気」です。

  そして、最後に本業転換のポイントとして次の五つの項目を挙げています。 1,多角化を行う場合には、「遠そうで近いもの」(それまでの本業で培ったコア・テクノロジーを応用でき一見、本業を関連のないとみられるものでも実は技術的に関連が高いもの)と「近そうで遠いもの」(一見、これまでの本業の延長上にあるような事業でもよく見ると自社が培っていた技術を活かせない、応用できないもの)を見極める。2,やらないものを貫く。3,本業転換を早急に求めるな(本業に代わる新事業は短期間に育たない、時間をかけてゆっくりと)。4,新事業に本業の規模を求めるな(伝統ある本業を持つ企業が新事業を考える場合、本業に匹敵する規模の事業を求める傾向が強い。)5,転換の必要がない時に本業転換の準備を。

  本書で上げた事例で特筆なのはやはり、最初の富士フィルムとコダックの比較対象だと思います。あの、ネガフィルムを開発、市場創造し写真という20世紀の大発明を見事商業化し、巨額の利益を享受したコダックと、後進でフィルム市場に参入した富士フィルム。結果として、フィルム市場が亡くなっても、自らの研究実績、コア・テクノロジ―を応用発展させ多角化に成功した富士フィルムとフィルム市場の消滅と共に消えていったコダック。。。今後、富士フィルムの書籍も是非読んで見たいと思いました。

  ところで、本書は、手嶋友希さんが早稲田大学大学院経営管理研究科で書いた修士論文を山田秀夫氏が加筆・修正し書籍としてまとめあげた、(つまり、大学院の生徒が書いた論文を先生が内容を更に調査・分析を行い書籍にまとめあげた。)ものです。よくまとまっていると思いますが、その反面、事例に挙げた企業に取材し、実際に当時会社にいた経営者、社員の声を取り上げ、その時の会社の雰囲気とか、その判断は、どのような過程でなされたのか、などなど、もう少しつっこんだ内容にして欲しかったという感じがします。