ギリシア人の物語Ⅰ 民主政のはじまり

  「歴史は社会人が学ぶべき必須の教養の一つ。」とよく本に書いてあります。自分の中では、世界の国の歴史の中で、一番興味があって、でも、一番とっつきにくい歴史のが「(古代)ギリシア、ローマ史」でした。自分でもなんとなく後回しにしていた感じですが、考えてみれば、ギリシアで都市国家(ポリス)が最立したのが紀元前8世紀頃なので、現代とは時間的に2800年ぐらいの開きがあり、また、日本とギリシア・ローマは経済的・貿易的にも結びつきはそんなに強くなく、地理的にも遠いので、今になって考えると、それも当然だったようにも思えます。


  とは言うものの、現代の学問・文明の発祥の地(の一つ)は間違いなく古代ギリシア・ローマです。そこで、今年になって、ギリシア・ローマの英雄譚を集めた岩波文庫の「プルターク英雄伝」やアレクサンドロス大王のものを思い切って読み始めたのですが、日本語も旧体、出てくる人物も神話の人物だったり、文献にあまり登場しない人名がいろいろでてきたり、と正直古代ギリシア・ローマ史ってどうしてこんなにとっつきにくいのだろう、と正直げんなりしていたのですが、最近、ネットで検索していたら塩野七生さんの書いた「ギリシア人の物語」「ローマ人の物語」という書籍に出会いました。


  はじめは、日本人が書いた西洋の歴史ということで、権威主義の学者さんが書いた固いものより読みやすければ、、ぐらいの思いで読み始めてみたのですが、これが予想外に良かったです。古代ギリシア史を要領よく、エッセンスを抽出し、普通の人にもわかりやすく、ギリシャ史をギリシア人という血が通った人間の物語として語っているところが、とても良かったと思います。今更ながらですが、歴史は、年表・年号の暗記から入るのではなく、まず、当時の人々がどのような考えをもって、どのように生きたのか、、というのを一つの物語として理解し、その物語にでてくる登場人物に感受移入していき、そして、その延長として歴史学者さんが書いた本でその歴史を学んでいく、という順番で勉強する方が身に入る、ということを理解しました。(例えば、日本の歴史では、司馬遼太郎さんのものがそれにあたるでしょう。。。)


  ということで、今回御紹介するのは塩見七生さんの「ギリシア人の物語Ⅰ」です。 お話は紀元前8世紀からはじまり、現代のオリンピックの起源であるオリンピア、ギリシア神話の神々のエピソード、古代スパルタの兵士育成方法などが語られ、当時の都市国家・ポリスの統治形態、民主制度などかわかりやすく解説されていきます。当時の特にスパルタの人々は、自分達の歴史を記録する習慣がなかったようで、当時の人々の考え方や、歴史上の人物の塩見さんの史観には、ある程度の推量・推測が入ってきていますが、それはそれでギリシア・ローマ史の初心者にとってこの時代を理解するには大助かりでした。この「ギリシア人の物語」第一巻では、当時のアジアの強国であるペルシア帝国がギリシア地方へ侵攻する第一次・第二次のペルシア戦役をクライマックスにおいていますが、簡潔な語り口で、読みやすくこちらも結構手に汗握るような感じで読み入ってしまいました。当時のペルシアからギリシアへ攻め込んだ兵員の数は20万とか、30万人とかいう記述もありますが、その物凄い兵員数は、ペルシア軍がヨーロッパとアジアを結ぶ当時のヘレスポントス海峡(今のダーダネルス海峡)をわたってヨーロッパへ侵攻していく過程で、行く先々の町の人々を軍に併合し勢力拡大をしていったことによるものです。一方アテネを中心にしてスパルタや他ギリシアの小都市が連合して総勢5万人の勢力でペルシア軍に対峙します。この戦役中に壮烈な戦死を遂げたスパルタ王ダレイオスや、現代オリンピックの競技種目「マラソン」の語源となった「マラトンの闘い」などのエピソードは、現代においても人々の心に中に息づいていることを実感できました。

   ところで、作者、塩野 七生(しおの ななみ)さんですが、、Wikipediaによると、「日本の歴史作家・小説家。名前の「七生」は、ペンネームではなく本名。7月7日生まれであることに由来。学習院大学文学部哲学科卒業後、1963年からイタリアに遊びつつ学び、モード記者として活躍。ヴァレンティノ・ガラヴァーニなどを日本に紹介する記事を担当し、1968年に帰国すると執筆を開始。一連の著作を通して、日本において古代ローマ史やイタリア史、イタリア文化に対する関心を高めたことは高く評価されており、2000年にはイタリア政府よりイタリア共和国功労勲章グランデ・ウッフィチャーレ章を受けた。」とあります。

  ギリシア・ローマの歴史に興味のある人には是非おすすめです。