水滸伝(全8巻)
「水滸伝」とは、「水のほとりの物語」という意味です。時代は北宋末期の12世紀。中国では、不正や官僚汚職がはびこり、私利私欲に走る官吏・役人たちの不公平・無慈悲な裁量により罪人となった硬骨漢、無頼漢、暴れ者たち108人が役所の追手から逃れ、あるいは牢獄を抜け出し紆余曲折を経て梁山のふもと黄河の沼沢地・梁山泊(りょうざんぱく:山東省西部)へ集まります。彼らは義人・宋江をリーダーに盗賊団を結成します。外見は盗賊に落ちぶれた彼等ですが、お互い義人として義兄弟の契りを結び、悪政打倒のため悪徳官僚・官吏に戦いを挑みます。やがて彼らの帰順する姿勢や義人としての志を知った天子(天皇)の要請により梁山泊の108人は、中国辺境を脅かす遼国の軍勢と対峙、戦いを繰り広げます。
「三国志」とならぶ中国「四大奇書」の一つですが、「三国志」と大きく違うのは、「三国志」は史実であったのに対し「水滸伝」はフィクションという点です。ただし、梁山泊108人の首領である宋江というのは実在した人物で、実際14世紀の元代に編纂された歴史書『宋史』には、12世紀初めに宋江を首領とする36人が実在の梁山泊の近辺で反乱を起こしたことが記録されているようです。おそらくここから白話文学の作り手たちが想像をめぐらし、実在した豪傑や人づてに聞いた暴れ者の逸話やエピソードに材をとり、弱くきを助け強気をくじく好漢たちのお話を創造していったのだと思います。
前述しましたが、この時代、中国は悪政がはびこり、本書でも官僚官吏がワイロを受けたり、横領、着服などはあたりまえにでてきます。また、お役所の悪官吏の裁量で犯罪人となった輩も、お金さえあれば、獄中における自分の身柄の安全は確保され、食事や刑務所内の仕事なども便宜を取り計らってもらえたり、更には、日中の外出も見逃してもらえたようです。
国の官吏がこんな感じですから、市民たちも当然右に倣えで、私利私欲を満たすことに精をだす輩がたくさんでてきます。悪徳商人が夫がいる女に手を出し、恋仲となったこの二人が邪魔になった女房の旦那を毒殺する、とか、山の中で居酒屋を営む主人が、お客の旅人が泥酔したところを狙って彼らの金品を奪った挙句、彼らを切り刻んで店に出す料理にしてしまう、、なんていう不道徳なエピソードもこの水滸伝にはでてきます。社会の安全を担保する見張り役・監視人である官吏たちがあさましく卑劣な限り、まっとうな生き方をしようとしても、また、世のため・人の為に善意を尽くそうとしても、それが彼らの利益に反し、目障りになれば、罪人となってしまう社会。こういった世の中に対し不平や愚痴をこぼしたり、また、うっぷん晴らしからお酒を飲みすぎ、役人の悪口を言い放ち、それが役人どもの耳に入ると、彼らによって罪人されてしまいます。
このようにお互いが自分の欲のために足を引っ張り合う世の中ですから、庶民たちはお役人たちの言葉を信用せず、多少社会から落ちこぼれた人間や悪人でも、信義に篤かったり、信頼できると感じた人間とはすすんで、義兄弟という契りをかわし、お互い助け合って(信頼し合って)生きていこうとしたのです。こういった連中がリーダーの宋江のもとに梁山泊に結集し、弱きを助けう強気をくじく108人の好漢となっていくのです。
こういった世の中だけに庶民の御上(おかみ)や悪徳商売人への嫌悪、憎悪は根深いものがあったようです。例えば、梁山泊108人の好漢の一人に「黒旋風(こくせんぷう)の李逵(り き)」がいますが、彼はとにかく相手が悪いやつなら殺すことなど全く厭わない、おまけに男だけならまでしも、女でも(また悪人の家で働く女中や丁稚まで)殺してしまうキャラクターです。彼はこの水滸伝の108人中でも主要キャラクターの一人ですが現代人が見ると、ちょっと考えられないくらい野蛮で残酷な感じがします。しかし彼の活躍を支持する読者が当時は多かったのだと思います。(だからこそ彼がこの「水滸伝」で主役・宋江を最後まで支える”家臣”という大役を与えられたのだと感じます。)この黒旋風の李逵の他のキャラクターも必要とあらば人がごったがえす街中やご近所でも人を殺めることに躊躇しない連中です。こいうったキャラクターたちが活躍するということ自体、12世紀北宋末期という時代は官僚連中も庶民も含め相当風紀が乱れていたことがわかります。
またこういった時代のせいかわかりませんが、一方では、(私利私欲に走った)犯罪者を処罰する手段として今では考えられないような刑罰がありました。凌遅刑(りょうちけい)というのがそれです。この残酷な刑罰は、人間の肉体を少しずつ切り落とし、長時間にわたり激しい苦痛を与えながら死に至らしめる方法で、中国史上最も残酷な刑罰とされています。凌遅刑は、反乱の首謀者などに科されることが多かったとされています。この水滸伝には前述した悪徳商人と夫のいる女性のエピソードで、悪徳商人にお金をもらい、彼が夫のいる女性を誘惑させる手伝いをする強欲老婆の他、この凌遅刑で処刑される悪役キャラクターが登場します。
この108人の好漢が活躍する「水滸伝」、おしむらくは、その好漢の数が多すぎることです。映画などでも複数のヒーローが活躍する話にしても、登場するのはせいぜい7人(例えば、「七人の侍」「荒野の七人」。例外的に「オーシャンズ11」の11人)でしょう。一方、この「水滸伝」ではその10倍近い英雄たちが登場します。そのため、一読しただけでは、梁山泊に集まった好漢すべてのキャラクターを把握しきれません。また、彼等の登場するエピソードも前後にからみあるので、登場人物がこんがらがってしまったり、物語の最初に登場した人が最後の方で登場して「あれ?この人いつでてきたんだっけ?」と物語の最初を見返すようなことになってしまいます。とはいうもののこの「水滸伝」、「反権力的な内容であるため、しばしば禁書とされたが広く愛読され、現在も中国で『農民革命の文学』として高く評価されている。」(Wikipedia)ということです。
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