嫌われる勇気
最近、日本でもおなじみになってきたアルフレッド・アドラー。本書はそのアドラー心理学の火付け役となった作品です。アドラーの心理療法が書かれていますが、アドラーの学者としての言葉を一般人にもわかる平易な言葉に落とし込んでいるのは、本書の著者、岸見一郎さんと古賀史健氏さん。岸見氏は「日本アドラー心理学会」の顧問で、長年、アドラーの著書を翻訳してきた日本におけるアドラー心理学の第一人者、古賀さんは、岸見さんのアドラー心理学の信奉者で、ライターとして活躍しています。この二人が本書をアドラー心理学の「定番書」として読み応えあるベストセラーにした功績者だと思います。
アルフレッド・アドラー(Alfred Adler/ 1870年2月7日 - 1937年5月28日)は、オーストリアの精神科医、精神分析学者、心理学者。ジークムント・フロイトおよびカール・グスタフ・ユングと並んで現代のパーソナリティ理論や心理療法を確立した1人 (Wikipediaより)です。フロイトやユングというと夢判断とか、人の過去のトラウマから今の患者の心理状態を診断する、というような手法で心理分析をするのだと思うのですが、アドラーは、一応彼らと同じ「精神分析学者」「心理学者」に分類される学者さんであるものの、彼の言う「心理学」「精神療法」は、むしろ心の診断、というより、人生に目的を見出せない人、迷っている人にとっては「人生を肯定的に生きるための教え」といってもいいと思いますし、何より、我々一般人が社会生活において、より人間関係を円滑にし、豊かに生きるための哲学として応用が利く考え方です。
実は本書を手に取る前に、数冊アドラーの本を読んだのですが、やはり学者さんの書いたものなので「いいことが書いてあるなあ。。」ぐらいはわかるのですが、それなりの学術用語がでてきたり、著者が使っている独特の用語(言い回し)などがあり、多少なりともとっつきにくく、アドラーの言葉を正確に理解するには、それなりの読解力が必要です。しかし、本書「嫌われる勇気」は、心理学や哲学書に不慣れなビギナーも、学術用語にとまどうことなくアドラー哲学(*アドラーは本来、心理学者なのですが、彼の言葉は生きるための哲学だと考えて差し支えないと思うので、ここでは、単に「アドラー哲学」と呼びます。)にストレートに入っていくことができます。その功績は前述の通り、岸見一郎さんと、古賀史健の2人です。彼らは、アドラー哲学を十二分に理解し、しかも、それを平易な表現で説明し、さらに、本書は、人生に目的を見出せない若者が、一人の哲学者と対話することでアドラー哲学を理解する、という「物語」形式にしているのですが、その構成が本書をより親しみやすいものにしていると思います。哲学者が若者にアドラー哲学を通して、人生の意義・目的、そして前向きな生き方とは何か? を語り、最初アドラー哲学を疎ましがっていた若者も少しづつアドラー哲学を理解していく、、という単純、かつ力強い構成にしたその試みが成功しています。(何より前述のお二人のアドラー哲学に対する熱意をひしひしと感じます。)
さて、ここに登場する主人公の若者。彼は、己の人生を真面目に真剣に生きようとしていますが不器用で、日々の生活では、いつも迷いながら生活している様子。でも彼なりの考え方もしっかり持っています。でもその一方、変に高慢でプライドが高く。傷つくのを怖がっている、、といったキャラクターです。たまにちょっと極端にになりすぎている感じのするキャラですが、でもこういったタイプの若者っていつの時代にもたくさんいると思います。(私も大学生のころは彼のような性格を多少なりとも共有していたように思いますし、また、大なり小なり多くの人が彼のような性格を持っているのではないでしょうか。。) 更に、若者に限らず、大人になっても程度の差はあるにしろ、日々人間関係に悩みながら生活している人は多いと思います。)そういった全ての人々をこの若者は代表していると思います。
一方、この若者に対峙する哲学者。現実にこんな人いるのか、とちょっと思ってしまうぐらい、この若者の挫折感や劣等感を包括しながら、感情的にならずに、また(彼の若さを)見下すことなく、彼とアドラー哲学を共有・実践していきます。ストーリー形式を採用し、アドラー哲学を享受していくプロセスを丁寧に深く語ることで、アドラー哲学を不変で誰でも共有できる「人生哲学」として提示することに成功しています。(かつて、ソクラテスの死を弟子のプラトンが「ソクラテスの弁明」という作品にしましたが、これもソクラテスが死刑をうける直前の牢屋に弟子たちが入り、ソクラテスと対話することで、ソクラテスの真意を説明する、という対話形式です。おそらくライターの古賀さんは本書の構成を考えるにあたり「ソクラテスの弁明」を意識していると思います。)
特に二人の対話の冒頭の、若者が己の悩みを語りだすところでは、結構、きつい言葉を使って自分の悩みを語るのですが、(通常、初めてある年少者から乱暴な物言いをされたら、普通の年長者ならカッとするような場合でもこの哲学者は、感情的にならず訥々とアドラーの真意を説明します。このように包容力のある哲学者に対し、自分の悩みを先鋭化している若者という対比構成にも、アドラー哲学をより広く、深く説明する、という岸見さんたちの真意があるようです。)
ここでは、アドラー哲学について深くは触れませんが、彼の哲学の基礎には、「人は他者とのつながりや社会貢献によって人生を充実させることの大切さ、他者との協調、他者への貢献に人の生きる意味を見出そうとする考え、」があり、自己啓発書として読んでも最適です。これまでフロイトやユングの後塵を拝していたアドラー心理学。実は多様性や個性を重んじる、まさに現代の世界の時流にそった、より良く生きるための哲学である、と言えそうです。 この「嫌いになる勇気」、そして「幸せになる勇気」それぞれベストセラーになり、ドラマ化もされましたが、それは現代社会が彼の哲学がに追いついてきた、ということなのだと思います。
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