2052 今後40年のグローバル予測
未来予測物の一冊です。未来予測物には例えば「2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する」(英『エコノミスト』編集部)、や「 マッキンゼーが予測する未来―近未来のビジネスは、4つの力に支配されている」(共著/リチャード・ドッブス、ジェームズ・マニーカ、ジョナサン・ウーツェル)なんかがありますね。本書「2052 今後40年のグローバル予測」は2012年発刊ですが、今読んでも、結構、読み応えありました。
印象としては上記二冊は、経済的な観点から世界の成長を予測していたのに対し、こちらは環境問題とか、持続可能な成長という「環境分野」から論じているせいか、ちょっとぺスミスティックな視点で未来を論じています。(実際、本書著者のヨルゲン・ランダース氏(注)は、1972年に「人口増加や環境汚染などの現在の傾向が続けば、100年以内に地球上の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らした「成長の限界」という本の著者の一人でもあります。)
まず、本書の中心には、「これからの私たちはすでに(心の奥底では)一人あたりの食料や製品の消費がいくら増えても満足感はほとんど高まらないことに気付いている。エネルギー使用と物質的消費の果てしない増大による『豊かさ』の追求は、地球という限りある惑星にとって悪影響が大きくなるので、将来的には物理的、精神的に持続可能な社会を築こうとする意識が広がる。それは現在の豊かな国から始まり、徐々に世界中に広がっていく。 その社会が目指すものが『化石燃料による経済成長』ではなく、『持続可能な幸福』であることは間違いない。」(P35)という考えがあります。
そのため、「世界は経済成長を犠牲にしてでも化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が必要」と著者は訴えますが、 しかし、「現代の資本主義、民主主義国家のリーダーである政治家や企業家の考え方は、すぐに結果を求められる社会志向のために、より近視眼的で短期的なモノの考え方に偏っているため、先進国においても自然破壊が始まりある程度、切迫した危機感を彼らが共有しないと、その移行は始まらない。」と著者は考えます。(その移行がスムーズに始まるのが2050年頃だと考えています。)(近視眼的、短期的な考えというのは、例えば、先進国では金融市場が強大になり、大企業では四半期に一度の決算で株価が変動し、経営者は常に株主のプレッシャーにさらされますし、政治で言えば2年間、4年間という(地球の変動から考えるとほんの一瞬)での短期的な視点で(政治的)成果を常に求められます。また、最近ではトランプ大統領のよう自国利益一辺倒な政治家が台頭してきています。このような人類の目先重視の考え方のため、既存の化石燃料エネルギーから(設備投資が必要で経済効率の悪い)再生エネルギーへの移行が遅れる、ということを言っているのです。)
つまり、本書が論じている、「これから2052年までのいろいろな分野での将来の予測 」というのは、換言すると、その「化石燃料による経済成長」から「持続可能な幸福を追求する成長」へ移行する過渡期の経済的、政治的、社会的、そして環境的な変化ということが言えると思います。そして、本書では、それらの変化として、以下のことを予測しています。
まず「世界の総人口」については、都市化が進み、出生率が急激に低下するため、一般に予想されていたより早く成長(増加)が止まり、2040年直後に81億人でピークとなり、その後減少へ転じます。「GDP(国内総生産)」については、世界的に人口増加率が鈍り、(労働)生産性が減少するため、成長は鈍化します。その結果、2050年ごろの世界全体のGDPは、現在の規模の2.2倍に留まります。( 2.2倍というと凄い数字と見られなくもないですが、例えば吉川洋氏の「人口と経済成長」なんかでは「(仮に)『一人当たりGDP』が年率 2.0%ほど成長する場合、35年で2 倍になる」(P186) という記述があります。また、同書が発行されたのが2016年で、その35年後は2051年、つまり本書「2052」の2052年とほぼ同じ年なので、要するに、(少し乱暴ですが)二人の著者の考えを一緒にすると、日本を含めた世界全体平均で 2052年まで 年2.0% 前後 の成長が続くということが予想できるのかもしれません。吉川氏の記述をもう少し詳しく読むと、日本の成長率はもう少し、低いようですが。。ちなみに全世界平均の1970年から2010年間のGDP成長率は年 3.5%だったので、やはり、これからの成長は、低成長ということなのでしょう。)
「生産性」「消費」に関しては、経済の成熟、格差などによる社会紛争の激化、異常気象による影響により「生産性向上」のスピードは鈍化し、「消費」に関しても、資源の枯渇、環境汚染、気候変動、生態系の損失、不平等といった問題の予防・解決・修復のため、GDPの大きな部分を環境問題改善のための投資に回さなければならなくなるため、その(消費)の成長率も鈍り、2045年に世界全体の財・サービスの消費はピークを迎えます。「また、環境対策(自然災害の事後処理、再生エネルギーの設備投資など)のため、今後数十年間で社会投資が増え、資源と気候の問題は2052年までは破壊的レベルには達しないが、しかし、21世紀半ば以降、気候変動は歯止めが利かなくなり、人類は大いに苦しむことになる。そして、21世紀前半に強制的かつ、集中的に対応策を進めていかないと、21世紀後半に温暖化は『自己増幅』し始める。」(この「自己増幅」というのは「気候変動の自己増幅」のことで、「現在の温暖化がさらなる温暖化を招き、その影響でますます温暖化が進むという、制御不能の悪循環が始まること」を言います。わかりやすい例は、「ツンドラの南の緑が溶けることで、強力な温室効果ガスであるメタンが放出されて気温が上昇し、さらにツンドラが溶ける、というものだ。この悪循環はツンドラがすっかり溶けてしまうまで続く。」(P312) 「世界のほとんどの地域で1人当たりの消費の成長が鈍る(富裕国では成長が止まる)ため、社会の緊張が高まり、紛争が増え、そのせいで生産性向上のスピードが鈍る。そして、世界中でますます都市化が進み、自然保護が疎かにされ、生物の多様性が損なわれる。」
「(上記の)様々な影響は国や地域によって異なる。(本書では「米国」、「米国を除くOECD加盟国」(日本はこのグループに属します。)、「中国」、「BRISE」(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ、その他新興大国10ヵ国)、そして、「残りの地域」という5つのグループに分けて説明しています。)予想外の敗者となるのは、現在の経済大国、米国である。(次世代で一人当たりの消費が停滞するため。) 勝者となるのは中国だ。『BRISE』は発展する。『残りの地域』は貧しさから抜け出せない。そして誰もが、貧しい国々の人々は特に、秩序がますます乱れ、気候変動の被害が増大する世界に生きることになる。2052年の世界は一律でも均等でもない。5つのグループでは勢いや政治・経済などの状況に大きな差がある。」
おそらくこのブログを読んでいる方の興味は、日本が含まれる「米国を除くOECD加盟国」の将来だと思いますので、その将来分析ですが、(P371)「このグループのGDPは増え続けるが、その成長速度は遅く、2030年代初頭に現在のレベルの約15%増しになって、ピークに達しその後、人口の減少、生産性向上のスピードが落ちることによりGDPの成長は失速する。それは、このグループの経済がすでに成熟しており、活動の大半が、生産性を向上させにくいサービス産業や介護に向けられるためである。その状況で生産性を上げるには潜在労働力(高齢化する国民という人材)のさらに多くを雇用に回すしかない。より多くの人に仕事を回すには強力なリーダーシップと高齢化や気候変動などから生じる問題を積極的に解決しようとする人々の強い意志が求められる。」(P372)そして、「全般的に見て、米国を除くOECDはこれからの40年間で緩慢な停滞を経験する。いくらかの成長もあるだろうが、穏やかな横滑りのような感じになる。」
「これからの40年間のGDPの動きをごく大雑把にまとめると、米国のGDPは高水準で横ばいになる。米国を除くOECDは、それより多少低いレベルで横ばいになる。その間中国のGDPは成長し続け、21世紀半ばまでに米国を除くOECDに追いつく。そして、21世紀後半には、3つのグループのGDPはほぼ同レベルになる。もっともこれは、『一人あたりのGDP』で、2052年の中国経済は、米国を含めたOECD33か国の合計と同規模になるだろう。」としています。(中国の成長が際立っていますね。)
(注)ヨルゲン・ランダース Jorgen Randers:BIノルウェービジネススクール教授。気候問題への戦略や対策、持続可能な発展、シナリオ分析法などが専門。WWFインターナショナル(世界自然保護基金)副事務局長、BIノルウェービジネススクール校長などを歴任。多くの企業で取締役会の非常勤メンバーとして、持続可能性についてのアドバイスを行う。ブリティッシュテレコム、ダウ・ケミカルの「持続性に関する評議会」委員。2006年、ノルウェー温室効果ガス排出対策委員会の議長を務め、2050年までに国内の温室効果ガスの排出量を現在の3分の2に削減するための対策をまとめ、政府に報告した。(「BOOK著者紹介情報」より)
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