直球勝負の会社 日本初!ベンチャー生保の企業物語

    著者、出口治明さんは、現在、立命館アジア太平洋大学の学長さんです。もともとは日本生命保険相互会社(日本生命)一筋で58歳の時に同生命保険会社を退職し、ライフネット生命保険(株)を設立しました。日本の生命保険会社一筋に仕事されてきた方なので、今の日本における生命保険制度の長所短所、生命保険業の表裏を知り尽くしています。そして、これからの生保はどうあるべきか? その出口さんなりの回答が "インターネットで生命保険商品を販売する会社" ライフネット生命の設立でした。

 本書は、出口さんがネットで生命保険を販売するビジネスプランをつくり、実際にライフネット生命保険を開業するまでの軌跡を綴ったものです。(実はこれまで知らなかったのですが、生命保険業というのは、開業のハードルがとても高く、独立系の生命保険会社の参入は戦後初ということです。)

 みなさんも日々のニュースなどで御存知のように今、日本経済においては、高度経済成長期に成長した会社の「影」や「ひずみ」が 会社文化となり、粉飾決算とか、従業員の過労死問題、、などいろいろな形で報じられています。出口さんが仕事をしていた生命保険業界でも数年前に保険金未払い問題が明るみに出て、ニュース、新聞等で報じられたのを記憶している方も多いと思います。出口さんはそういった、これまでの日本の会社文化を刷新したい、「生保不信を終わらせ、生命保険をより良い形で次の世代に引き継ぎたい。」という思いでライフネット生命を創業しました。

 例えば本書P68にあるのですが、日本において「世代別の世帯所得」で一番低いのは、実は世帯主が29歳以下の世帯です。30-39歳までの世帯でも平均所得以下です。この二つの世代は、本来、家庭をつくり、子供を育て、家を購入したり、車を購入したりと消費を通して日本経済を牽引する世代のはずです。この世代の所得が低い理由は、一つには、高齢者が多い日本で、どうしてもその人口比率が多い高齢者の民意が政策に反映されがちになり(高齢者を味方するような性格になり)、結果として若者に対する格差を生んでしまっているようです。こういった日本の経済の「ひずみ」の被害者でもある「若者世代」に対し、出口さんは従来の生命保険商品の質を落とさず、低価格で提供したい、という思いも強くあったそうです。そのため、少し前のライフネット生命のテレビCM(漫才コンビの博多華丸&大吉さんが出演)にもありましたが、とくかく生命保険商品をわかりやすくして、保険料も半額にしたのです。

 本書では、出口さんのライフネット生命設立の経緯がメインになっていますが、実は私的に、出口さんの生き方は、これからの日本人の生き方のお手本だと思っています。自分のやってきたこと(の延長)で、定年前に起業し、成功。(それだけでも凄いのに)そのトップの立場をある程度経営見通しがたったところですぐに若手に譲り、なんと自分は4年生大学の学長に収まってしまう、という、人生100年ライフにおいて見事な(途方もない)キャリアの築き方をしています。もちろん、京都大学卒業で大手生命保険会社の管理職などを歴任されてきた方なので、頭脳明晰で、人間的にもしっかりされている方なんだと想像します。また、名誉とか権力とかに固執せず、精神的にも柔軟で、若々しさを感じます。

 「人生にとって大切なものは、人との出会い、本、旅」と考えている出口さんは、今まで読んだ本は一万冊以上ということで、私も読書する時に出口さんの推薦する本も参考にしていますが、出口さんの薦める本はどれもいわゆる「分厚く、読み応えのある、しっかりした内容のもの」ばかりで、その読書の志向性も出口さんの知識、見識の深さの証左であるように思うのです。出口さんの生き方を見ると、「知識や教養の獲得は自己投資である」と強く感じます。