グリーン革命(下)No.1

  グロバリゼーションや新興国の成長による人口増加、ITテクノロジーの発達で、世界規模で経済活動が活発化することによって加速する(従来の化石燃料由来の)エネルギー消費。それが引き金となり年々顕在化してくる地球温暖化現象。これまでの化石燃料由来エネルギーから、Co2を排出しない再生可能エネルギーへの転換を進める国が、今後の世界的なエネルギー政策においても主導権を握ることができる、と著者/トーマス・フリードマンさんは主張します。

  この「グリーン革命」(下)においてフリードマンさんは、アメリカにおける化石燃料由来エネルギー巨大産業界や、化石燃料由来のエネルギーを供給するアメリカ国内の電力システム•ネットワークを管理する公益事業者(電力事業者)の保守的体質、グリーン・イノベーションを加速させるために政府が取るべき政策、既存エネルギーを供給している既得者が牛耳っている市場を、どのようにデザインし直すか、、などについていろいろな提案をしています。


  毎日の生活に欠くことのできない電気。この電気の多くは現在、化石燃料からつくられています。その化石燃料由来の電気を供給するプラットフォームとなる電力システム。アメリカにおいて、この電力システムを所有、管理している電力事業社は、大小含め、アメリカ国内に約3,200社ありますが、この電力事業者の経営体質、電力システムのアップデートがまず必須になります。フリードマンさんによれば、アメリカのこのような電力会社は、どのような方法で発電されたかにかかわらず、とにかく安く、季節や昼夜に関わらず安定供給をすることが一番の経営方針になっていて、石炭であろうと、石油であろうと、また、原子力、水力、風力、太陽光、天然ガスであろうと、つくられる電気の燃料には関係なく、家庭に供給される電気は同一料金になっていて、その料金は、発電される時刻、需要のピーク、ピークオフでも変わらず、同一料金になっています。この電力事業者の監督機関の方針は簡潔に言うと次ようなものです。「安く、信頼でき、どこにでもあるように電気を生産してくれれば、独占を認めよう。経費を回収し、ビジネスを運営できる純益を資本投下から得ながら、地域の電力負荷をこなせるように、料金の改定を数年毎に行う。そのためには仕事をちゃんとやってもらうよ。」 


  つまり、アメリカの監督機関の要求には、Co2を出さない発電方法や、エネルギー効率を向上させる経営努力は一切要求していません。このような国と電力事業者の長年の関係のため、電力会社は、土木建築業者のように、発電所や高圧送電線などの設備を増やし(設備にかかった費用は、電力価格に転嫁できる)、電力をたくさん発電し(たとえCo2を多量に排出する石炭由来の電気を多くつくっても、また、オフピーク時に大量につくっても、安ければおかまいなしで)、消費者により多くの電気の消費を促し発展していく、産業構造が出来上がっているのです。要するに「安い電力」をつくるために石炭、石油などの鉱産資源を使い、「信頼でき」「いつどこでも」の基準を満たすため、常に消費者が消費する以上の電力をつくり、消費者の電力消費を逼迫させないようにしているのです。換言すると、このやり方は「効率性」とはまったく矛盾するものなのです。(例えば、これまでは、石油を燃やして電気をつくる場合、石油を燃やした熱の40%ぐらいはそのまま大気へ放出していましたが、、、その熱でお湯をわかすとか、その熱を再利用して新たな活用方法を探す、というような「限られた資源をリサイクルし有効活用する」という我々が日常生活で行っている資源・環境保護の視点がまったくなかったのです。)

   

  ビル・ゲイツさんは、近著「地球の未来のため僕が決断したこと」の中で、「グリーン・プレミアム」というコスト負担の考え方を提唱しています。このグリーン・プレミアムとは、化石燃料由来の電気をつくる時に、現在は、Co2はそのまま大気へ放出し、そのCo2を無害化するためのコストは一切考えられていませんが、このCo2無害化のコストのことを言います。そのグリーン・プレミアムは、「1ワットの化石燃料由来の電気をつくるコスト(A)と、同じ1ワットの再生可能エネルギー由来の電気をつくるコストの差(B)」のことで、「(B)ー(A)= グリーン・プレミアム」という公式になります。((B)の方は、Co2を排出しないためのコストが含まれているので、今の技術では、(B)ー(A)となり、その逆は成り立たない。グリーン革命が進めば、これが逆になる可能性がでてくる。つまり、グリーン・エネルギーのほうが割安になる可能性がある。)

  現在のアメリカの電力事業者がつくる「安い電気」にはこのグリーン・プレミアムは一切考慮されていない(電気料金に入っていない)のですが、Co2の環境負荷が明確になってきた現代では、このグリーン・プレミアムも当然、(化石燃料由来の)電気料金に上乗せされるべきなのです。(過去から現在まで)全く電気料金に考慮されていない、このグリーン・プレミアムは、このままだと、社会全体、あるいは我々の子供達が将来支払うことになります。


  フリードマンさんも「グリーン・プレミアム」という言葉こそ使わないものの、同じような考えを持っていて、もし、環境を汚し続ければ、そのツケは、我々の子孫が負担するだろう、と言います。 このため、フリードマンさんがまず、提唱しているのは、電力供給側と需要側の双方から制御できるIOT技術を含めた、スマート・グリッドの確立です。アメリカの電力システムは、エジソンが電気を発明し、電気を消費者へ供給する事業を開始してからというもの、その時代、時代の政府、エネルギー市場の要請より、継ぎ接ぎを重ねに重ねてつくられた、いわば巨大なパッチワークのようなものになっています。この複雑で、送電効率の悪いアメリカ国内の電力システムをいかに ITテクノロジーを使って効率よく発送電できるネットワークへと変えていくか、がまず重要な課題になっています。(No2へ続きます)