予想どおりに不合理
みなさんは、買い物する時、あらかじめ「これを買うぞっ!」と頭の中に入れて買い物へ行き、でも、終わってみると違っていたものを購入していた。ということがあるでしょうか??(僕はしょっちゅうあります!) また、薬、サプリなんかでは高価なモノの方が、安価なモノより効果があると信じると思います。さらに、気持ちを込めて「相手の為に、、」と思って行ったことを、その相手からお金で返されると、なんかがっかりしたような経験ってないでしょうか?? アメリカなんかでは、モーセの十戒を思い出すように言われると、そう言われなかった時より(少なくとも思い出した直後は)正直になりやすくなるそうです。こういう人間の心理を経済学と結び付けて考える学問を「行動経済学」と呼びます。
「行動経済学(こうどうけいざいがく、英: behavioral economics)とは、経済学の数学モデルに心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法である。行動経済学は当初は主流派経済学に対する批判的な研究として生まれたが、1990年代以降の急速な発展を経て米国では既に主流派経済学の一部として扱われるようになった。」(Wikipediaより) ノーベル経済学賞でも、行動経済学の研究者が受賞することがあってか(例えば、ダニエル・カーネマン(2002年受賞)、リチャード・セイラー(2017年受賞))行動経済学を扱った書籍も売れるようになってきました。 (そういえば、以前、会社で「ヘンテコノミクス」(佐藤雅彦氏他共著)というマンガを借りたことがありますが、これも行動経済学を扱ったものでした。)
本書「予想どおりに不合理」の著者/ダン・アリエリー ( Dan Ariely)氏は、行動経済学研究の第一人者です。「デューク大学教授。ノースカロライナ大学チャペルヒル校で認知心理学の修士号と博士号、デューク大学で経営学の博士号を取得。その後、マサチューセッツ工科大学 (MIT) のスローン経営大学院とメディアラボの教授職を兼務。また、ユニークな実験研究によりイグ・ノーベル賞を受賞している。」(書籍の商品説明より)
本書から、興味深い事例をひとつ紹介します。以前、アメリカで困窮している退職者のために、全米退職者協会が弁護士たちに声をかけ、一時間当たり三十ドル程度の低価格で、困窮する退職者の相談に乗ってくれないか、と依頼したことがありました。しかし、弁護士たちは断りました。(ここからが少し意外なのですが、)同協会のプログラム責任者は、次に、弁護士たちに困窮する退職者に無報酬で相談に乗ってくれないか、と依頼したのです。すると今度は、大勢の弁護士がこの申し出に応じ、無料で退職者の相談に応じたのです。
人がお金のためよりも、自分の信条や道徳的価値観から熱心に仕事をすることはよくありますが、どうしてこのようなことが起きたのでしょうか? 実はこれには、我々の通常の生活において行動の基準になっている、ある二つの異なる価値観が関わっています。それは「社会規範」と「市場規範」です。「社会規範」には、友達同士の頼みごとや、お金とは無縁のお手伝いとか、ボランティアなんかが含まれます。一方の「市場規範」にはお金が深くかかわります。賃金、価格、賃貸料、利息、費用、、、など。 つまり、先述した事例では、弁護士たちは、最初の依頼に「市場規範」をあてはめ、自分の仕事における時給がいくらが適切なのか?を算出し、30ドルは低い、と判断したのです。しかし、次の依頼において弁護士たちは(その判断に)「社会規範」を適用したのです。「社会の困っている人のために引き受けよう」と。
「社会規範と市場規範の衝突」に関する事例をもう一つ紹介します。著者、アリエリー氏の二人の友人が、イスラエルの託児所で、子供の迎えに遅れてくる親に罰金を課すのが有効かどうかを調査しました。その調査において二人の友人は「罰金はうまく機能しないばかりか、長期的にみると悪影響がでる」と結論づけたのです。(P133) どうしてでしょうか??
罰金が導入される以前は、先生と親は社会的な取り決めのもと、遅刻に対して社会規範をあてはめていました。そのため、親たちは子供の迎えに遅くなると、後ろめたい気持ちになり、その罪悪感から時間通りに迎えに行こうという気になりました。しかし、託児所が「罰金」を導入したことによって、(託児所は)意図ぜずに(親が持っていた)社会規範を市場規範に切り替えてしまったのです。時間に遅れた分をお金を支払うことで、親たちは(遅刻を)市場規範でとらえることになり、「お金で解決するのだから、決めるのは自分」とばかりに親たちの迎えに来る時間が遅れるようになったのです。これはお迎えの遅刻をなくすという託児所の思惑とは全く違ったものになったのです。そこで託児所は、数週間後に罰金制度を廃止しました。ところが結果は、またも意外なのもになってしまったのです。託児所は社会規範に戻ったのですが、親たちには遅刻の罪悪感は戻ってこなかったのです。罰金がなくなったのにもかかわらず、親たちは相変わらず、迎えの時間に遅れ続けたのです。むしろ、罰金がなくなったせいで、子供の迎えに遅刻する回数がわずかですが増えてしまったのです。「社会規範も罰金もなくなったのだから無理もない。この実験は悲しい現実を物語っている。社会規範が市場規範と衝突すると、社会規範は長い間どこかへ消えてしまう。社会的な人間関係はそう簡単には修復できない。」(P134)と著者は語ります。
著者は本書の最後で、この本で紹介した研究からひとつ重要な教訓を引き出すとしたら、それは「わたしたちはみんな、自分がなんの力で動かされているかほとんどわかっていないゲームの駒である、ということだろう。」と語っています。そして、「たとえ不合理があたりまえのことであっても、だからどうしようもないというわけでもない。ということだ。いつどこでまちがった決断をする恐れがあるかを理解しておけば、もっと慎重になって決断を見直すように努力することもできる。」(P440)
今回は、一つの事例しか紹介しませんでしたが、この他にも一見「不合理」にみえる我々の日常での振る舞いや、消費行動におけるいろいろな面白い心理行動が紹介されています。本書を読み終わった後、過去の自分の消費行動を思い起こすと今さらながら思い当たる事例がいくつかありました。また、文体もわかりやすくユーモラスです。日本ではこれから消費税も上がります。モノを買うときは納得して買いたいですよね。人の消費者心理に興味のある方には一読をお勧めします。
0コメント