最強の営業法則

  みなさんは、本書の著者(*)ジョー・ジラードさんをご存知ですか? ジョー(以下、ジョーと記します)は車のセールスでギネスに認定された方です。彼は1928年、デトロイトの下町にある貧しいイタリア移民の家に生まれます。8歳から靴磨きを始め、新聞配達、皿洗い、ストーブの組立工、住宅建築業など40余りの職を転々としたのち、35歳でミシガン州のシボレー販売店で乗用車のセールスマンとしてキャリアを始めます。セールスマンになった最初の日に乗用車を売ることに成功、しかし、同僚からの嫌がらせもあり、その2ヶ月後、次の職場、ミシガン州イーストポイントにあるメロリス・シボレーに移ります。そこでジョーはなんと、15年間連続でトップの販売記録を記録。(新しい職場に移った4年後以降から、1978年の引退までの12年間「世界No.1のセールスマン」としてギネスブックに認定され、今なおその記録は破られていません。また、営業マンとして唯一、米国自動車殿堂入りを果たしています。)そして、退社後は、自身の経験を生かした著書の執筆やビジネスマン向けの講演を行なっている。(Wikipediaと本書紹介情報から)

  会社で営業をする人たちは自らの成績を上げるため、どのような努力を日々行っているのでしょうか? 自分も不思議に思って本屋へ行ってその類の営業書を探すと、それなりの実績のある人が本を出していて、読むといろいろテクニックとか載っています。その技術については、「なるほど」と思うものや、賛成できないものもあります。でも今回のジョーの営業方法は、仕事を行う人にとって大切なことが押しつけがましくなく書かれていて、(テクニック偏重でもないので、)とても素直に読むことができました。また、その中にジョーの人生体験、価値観も垣間見ることができ、「営業」という仕事の一つのカテゴリーにとどまらず、会社などで真面目に仕事をするすべての人に共通する普遍的なものが書かれているせいか、一気に読むことができました。

  最初に書きましたが、ジョーはイタリアからの移民で、貧しい家庭に生まれました。父親からも家庭内暴力も受けていたようです。また、そのせいか八歳頃から始まったどもりもひどくなり、その後、周囲の悪い友達の騙されて受けた仕事で、法に触れるようなこともやります。結果、いろいろな商売を転々としますが、家庭をもった彼は、車のセールスマンになることを決意します。そして、セールスマンになった初日に(信じられないことですが)すぐに一台売ることに成功するのです。それ以来、彼は自らいろいろなアイデアを発案し、顧客開拓に乗り出します。当時のカー・ディーラーの営業というのは、数人の営業マンが営業所を訪れるお客を順番待ちして営業していく、というやり方でした。(つまり、駅のタクシー乗り場にきたお客をそこで待っていたタクシーが順番を待って乗せていく、皆さんが知っているあのやり方です。)つまり、お客さんが来るまではセールスマンは “お客さん待ち” の状態で、セールスマン同士でおしゃべりをしたり、タバコを吸ったり、時間になると食事へ行ってたりと、(各自のノルマさえ達成すれば、上司や周りからの束縛を受けないようなスタイルで)自由だったようです。一方、ジョーは同僚と徒党も組まず、自ら考え一人で行動し、そういった隙間時間にも、顧客にはがきやカードを書いたり、また、オフの日にスポーツ観戦へ行った時にも周りの観客に自らの名刺を渡したりと常に努力を怠りませんでした。また、アフターケアも怠りませんでした。一度車を売ったお客には、クリスマス・カード等送ったり、自分の名前を忘れさせず(また、そのお客さんが紹介してくれる可能性のある)見込み客の開拓も行いました。仕事中はいつも、自らが若く結婚したばかりの時、子供に食べさせるものがなく、将来を心配していた奥さんや子供のことが頭にあった、とジョーは言います。

  ジョーは、初めての営業で、最初のお客さんにセールスした時のことで今でも覚えていることがある、と言います。それは「私がその男を初めて見た時から、車を買ってくれるまで絶対に帰さないぞ、と心に決めたことだ。今まで彼の顔を思い出せない。彼を見るたび、私の目には自分が求めているものしか映らなかった。私が欲しかったのは、家族に食べさせるための袋一杯の食料品だった。どんな売り方をしたのかも覚えていない。車のことも営業のこともほとんど何も知らなかった頃だから商品の説明をしたはずはない。顧客の反論をどう切り返すかも教わったことはなかった。だが、彼がどんなに気が進まない様子を見せても、何とかまた前に進めたことは確かだ。(中略)その男のことでわかっているのは、彼が私の挫折した人生を立ち直らせ、家族への義務を果たす唯一の手段だったということだけだ。彼は袋一杯の食料品であり、彼が車を買ってくれれば、家族は食べられるのだ。」「欲求。私の欲求。それしか頭になかった。そしてその欲求に駆られてとった私の言動は、彼に車を買わせるに十分だった。強く望むこと、そして自分の望みが何であるかを知ること、それが営業マンとして成功するためのほとんどすべてだ。」(P52)「私は三十五歳まで完璧な落ちこぼれだった。しかし、自分で自分を哀れんではいけない。そこに落とし穴がある。」(P15)(「強く望むこと」それは、洋の東西に関わらず成功への鍵かもしれませんね。京セラの稲盛さんも自らの著書において同様のことを話しています。)

  ジョーは自らが考えだした「ジラード二五〇の法則」「観覧車の法則」などを本書にて公開していますし、「紹介」の大切さ、「におい」を売ることの大切さを本書で強調しています。また、“Iguarantee you”(私が保証します。)という思い言葉も頻繁に登場します。(興味ある方は、ぜひ、直接本書を手にして下さい。) ジョーの体験談を読むと、成功に近道なし、努力あるのみ、ということを改めて思いました。

(*)共著者としてスタンリー・H・ブラウンの名前が記載されています。