人を動かす人になれ!

  永守 重信(ながもり しげのぶ)さんは日本電産株式会社の最高取締役会長兼CEOです。1973年に日本電産を創業し、精密小型モーターの開発・製造をメインに事業を育て、経営難に陥っている優秀な技術を持つ会社をM&Aで吸収し、会社を大きく育て、現在もそのシェアにおいて世界一を維持・継続しています。ちなみに2019年3月期の決算売上は約1兆5千億円にのぼります。

  永守さんは一言でいうと「直言実行」という言葉がそのまま人になったような方で、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる。」を信条にしている経営者です。本書「人を動かす人になれ!」は、永守さんが経験してきた会社員、リーダーにとって必要な「心得」を1条から100条まで書き綴った「心得集」です。

  本書からいくつか私の心に残った「心得」を紹介します。まず永守さんの幼い時から「一番以外ビリだ」という哲学を持っていて、これは経営の哲学にもなっています。「製品については世界一の品質、精度でなければいけない。市場のシェア、セールス力、マーケティング力、人材についても一番、一流をめざしている。」ただし、その一番になるための努力、謙虚さを持つことは当然必要で、そいうった覚悟のある人の下でこそ部下は動いてくれるのです。また、個人の能力というものは五倍も違うことはないが、部下の持つ意識を変えることによりその意識の差は100倍にも開く、と考えています。 「能力の高い人を採用するというよりも人並みの能力を持つ人材を採用して、彼らの意識を高めることに全力を傾注する。」これが、創業25年で売上高2,600億円の企業グループに成長した要因である、と永守さんは考えています。

  では、どういったタイプの社員がリーダーになれる素質を持っているのでしょう。社員は大きく分けて三つのタイプがあると言います。自ら仕事に燃えられる自然性タイプ。他人が仕事に燃えるのを見て、その刺激を受けて自分も燃えるタイプ。そして、全く燃えない、燃えようとしないタイプです。永守さんは「苦労や困難から逃げようとすると苦労や困難は追いかけてくるし、楽を追いかけようとすると楽は逃げていく。」という自らの経験から導いたテーゼを持っていますが、その哲学を理解できるのは自ら燃えるタイプの社員だと言います。自ら燃える人間は、楽ばかり求めず、苦労や困難に立ち向かうことのできる人間だからです。

  次に「失敗」について。これまでたくさん失敗をしてきた、という永守さんですが、その数多い失敗から得た教訓というのは、「失敗は必ず解決策を一緒に連れてくる。」というものです。失敗から目をそらさずに、むしろこちらから失敗の中に飛び込んでいけば、必ず失敗しないコツや解決策を見つけられる、そして、致命傷にならない程度の失敗なら若い時に一度でも多く経験すべき、と若い人達にアドバイスを話しています。前述した永守さんの経営のテーゼ「苦労や困難から逃げようとすると苦労や困難は追いかけてくるし、楽を追いかけようとすると楽は逃げていく。」とどこか重なる言葉ですね。

  創業者が会社を大きくしていくと、いつか会社は創業者のワンマン経営に陥るもの、ということはよく聞きますが、永守さんはそいうったトップダウン式の経営を理想の経営とは考えていません。「少しわが社を御存知の方なら、日本電産は猛烈なワンマン会社だと思っておられるようだ。だが、これは実態とはかなりかけ離れている。仮に部長なら、部長の判断で決裁すべき案件の方が圧倒的に多数を占める。(中略)私は、社員一人一人が自分で考え、自分で決断し、そのなかでリーダーはリーダーとして指導力がフルに発揮できる組織をつくりたいと思っている。ソニーやホンダのような自由で、個性の活かせる会社だ。上意下達、トップダウンでしか動けないような組織は早晩、時代の藻屑(もくず)となって消滅する運命をたどる以外にない。」と、トップダウンでしか動けない社員は、リーダーになれない、と諭しています。

  この他、永守さんが自身の経営を通してつかんだ経営ノウハウ、社員としての心得などいろいろ語っています。